現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

正常出産のケア:実施ガイド

 WHOが1996年に示した「正常出産のケア」実施ガイドは、多くのエビデンスから十分に検討された内容で、基本的には、20年経った現在も適応していると思います。WHOのサイトからPDF文書でダウンロードできますが、翻訳してみました。

再生医療や新薬、不妊治療に関する報道などから、医学の進歩は著しいと思われるかもしれませんが、医学の本質はそれほど変わりません。特に、正常出産のケアは大きく変化するものではありません。

(これは、筆者が個人的な目的で翻訳した文書です。必要な方は原文をご確認ください。文中の小文字記載は、訳者注です。なお、今回は原文PDF page34-37の翻訳です)


正常出産のケア:実施ガイド

正常分娩において日常的に行われているケアを、有用か? 効果があるか? 有害ではないか? の点から次の4つのカテゴリーに分類しています。
(原文では、それぞれの理由が示されていますが、今後、筆者の解説とともに紹介していきます)

  • カテゴリーA:明らかな証拠をもって有用であり、奨励されるべきこと
  • カテゴリーB:明らかに有害、または無効であり、排除すべき慣行
  • カテゴリーC:裏付けとなる証拠が不十分で、明確な推奨はできず、さらなる研究で明らかにされるまでは、慎重に行うべきこと
  • カテゴリーD:しばしば不適切に行われていること


カテゴリーA:明らかな証拠をもって有用であり、奨励されるべきこと

  1. どこで、誰と、出産を迎えるか? についてのプランを、妊娠中に本人と一緒に決めておき、それを夫やパートナー、もし適切なら家族にも伝えておくこと
  2. 妊娠のリスク判定は、妊婦健診のたびに再評価し、分娩介助者は入院時から分娩終了まで、終始、その評価を繰り返すこと
  3. 陣痛期から、分娩時、そして出産の全てが終了するまで、妊婦の心身の状態を観察すること
  4. 陣痛期、分娩時に飲水を勧めること
  5. 出産場所については、十分な情報を提供した上で、妊婦の選択を尊重すること
  6. 出産が可能で安全であり、妊婦が安心と信頼を感じる場所であれば、周産期センターではない周辺施設(産院などの一次施設)での分娩ケアを提供すること
  7. 出産場所において、妊婦のプライバシーを尊重すること
  8. 陣痛・出産に際して、妊婦に寄り添ったサポートを提供すること
  9. 陣痛・出産に立ち会う人の選択は、妊婦の意思を尊重すること
  10. 妊婦が知りたい情報や説明を、希望するだけ提供すること
  11. マッサージやリラクゼーションなどの、非侵襲的、非薬物による陣痛緩和を行うこと
  12. 間欠的な心拍聴取により、胎児の状態をモニターすること
  13. 使い捨ての器具は一回のみ使用し、再生可能な器具は適切に汚染除去すること
  14. 内診、赤ちゃんの娩出、胎盤を扱うなどの際には、手袋を使用すること
  15. 陣痛期を通して、妊婦の姿勢や動きは自由にさせること
  16. 陣痛発作時には、仰臥位(あおむけ)以外の姿勢をすすめること
  17. 分娩経過表などを用いて、分娩の進行を注意深く観察すること
  18. 産後出血のリスクがあったり、わずかな出血でも危険性がある妊婦において、分娩第3期(赤ちゃんが生まれて胎盤娩出まで)に、予防的にオキシトシンを投与すること
  19. 臍帯の切断は、無菌的に行うこと
  20. 赤ちゃんの低体温を防ぐこと
  21. 母と子が早期に肌と肌で接触し、WHOの母乳育児ガイドラインに従い、産後1時間以内に哺乳開始できるようにサポートすること
  22. 娩出した胎盤と卵膜の検査を習慣的に行うこと

 

カテゴリーB:明らかに有害、または無効であり、排除すべき慣行

  1. 慣例的な、浣腸
  2. 慣例的な、外陰部の剃毛
  3. 慣例的な、分娩時の静脈点滴
  4. 慣例的な、静脈カテーテルの予防的留置
  5. 慣例的な、分娩時の仰臥位(あおむけ)
  6. 直腸診(肛門から指を入れた診察)
  7. エックス線による骨盤計測
  8. 産まれる前のどの時期であっても、薬の効果をコントロールできない手段で分娩促進薬を投与すること
  9. 分娩中に、足台の有無にかかわらず、慣例的に砕石位をとらせること
  10. 分娩第2期(子宮口が全開大から赤ちゃん娩出まで)に、周囲の指示で、呼吸を止めて息ませるバルサルバ法を続けさせること
  11. 分娩第2期に、会陰部をマッサージやストレッチすること
  12. 分娩第3期(赤ちゃん娩出から胎盤娩出まで)に、出血の予防やコントロールのために、エルゴメトリンの錠剤を内服させること
  13. 慣例的に、分娩第3期にエルゴメトリンを注射すること
  14. 慣例的に、分娩後に子宮内を洗浄すること
  15. 慣例的に、分娩後に子宮内を手探りで調べること

 

カテゴリーC:裏付けとなる証拠が不十分で、明確な推奨はできず、さらなる研究で明らかにされるまでは、慎重に行うべきこと

  1. 分娩時の薬物に頼らない陣痛緩和とされる、ハーブ、水中出産、神経刺激
  2. 慣例的な、分娩第1期(陣痛開始から子宮口全開まで)人工破膜
  3. 出産時の子宮底圧迫
  4. 会陰保護に関する手技や、娩出時の児頭への操作
  5. 娩出時、胎児への積極的な操作
  6. 慣例的に、分娩第3期にオキシトシンを投与や臍帯牽引などをすること胎盤娩出のために)
  7. 臍帯の早期結紮
  8. 分娩第3期に、子宮収縮を促すために乳頭刺激すること

 

カテゴリーD:しばしば不適切に行われていること

  1. 分娩中の食事と飲水の制限
  2. 全身麻酔薬による陣痛管理
  3. 硬膜外麻酔による陣痛管理
  4. 分娩監視装置
  5. 出産の立ち合いの際に、マスクと滅菌ガウンを着けること
  6. 繰り返し、頻回の内診が、特に複数の介助者により行われること
  7. オキシトシンによる分娩促進
  8. 慣例的に、分娩第2期の始まりに合わせて、分娩中の妊婦を部屋移動させること
  9. 膀胱カテーテルによる導尿
  10. 子宮口が全開、またはそれに近いと診断される時に、本人自身が息みたいと感じる前に、息ませること
  11. 母児の状態が良く、分娩進行がある場合に、例えば1時間のような、分娩第2期の規定された時間に固執すること
  12. 手術的分娩(帝王切開、鉗子分娩、吸引分娩)
  13. 遠慮のない慣例的な会陰切開
  14. 分娩後に子宮内を手探りで調べること

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無痛分娩の利益とリスク

アメリカ妊娠協会による無痛分娩に関する解説を翻訳しました。

一般の妊婦向けの文書ですが、内容は専門的で詳しく記載されています。アメリカでは、妊婦本人が自ら勉強した上で、無痛分娩を選択しているようです。日本では、無痛分娩の良い面の宣伝が多く、リスクについての説明は不十分です。
(以下は、筆者が個人的な目的で翻訳した文書です。必要な場合は原文をご確認ください)

 

分娩時の硬膜外麻酔(無痛分娩)の利益とリスク

硬膜外麻酔は陣痛の痛みを軽減する最も一般的な方法です。多くの妊婦が、痛みを軽減する他の方法よりも硬膜外麻酔をリクエストし、病院で出産する人の50%以上で硬膜外麻酔が使われています。
”分娩の日”への準備として、できるだけ陣痛緩和の選択肢について学び、分娩の際に適切に意思表示できるようにしておきましょう。
麻酔の違い、投与法、その利益とリスクを理解することは、陣痛・出産時の意思決定に役立ちます。

 

硬膜外麻酔とは?

硬膜外麻酔は、身体の特定部分の痛みをブロックする局所麻酔です。硬膜外麻酔の目的は、鎮痛、または痛みの緩和であり、全ての知覚を麻痺させる麻酔ではありません。
硬膜外麻酔は、下部脊髄からの神経知覚をブロックし、下半身の感覚を低下させます。
硬膜外麻酔で使われる薬剤は、ブピバカイン、クロロプロカイン、リドカインなどの局所麻酔薬です。局所麻酔薬の必要量を減らすために、しばしばフェンタニル、スフェンタニルなどのオピオイドや麻薬を添加して注入されます。
これにより必要最小限の疼痛緩和をおこないます。硬膜外麻酔の効果を持続させ、母親の血圧を安定させるために、薬剤にエピネフリンフェンタニルモルヒネ、クロニジンを添加することもあります。

 

硬膜外麻酔はどのように行われる?

有効陣痛が始まる前や硬膜外麻酔の処置の前には、静脈点滴が開始され、陣痛から分娩となるまでに1~2リットルの静脈輸液が行われます。硬膜外麻酔は麻酔専門医、産科医、または麻酔看護師が管理します。
あなたは側臥位か坐位で、背中を弓のように丸く維持するよう求められます。この姿勢はトラブルを予防し、硬膜外麻酔の効果を高めるために重要です。
感染予防のために、腰背部のウエスト周りを消毒液で拭かれ、背中の一部の領域を麻痺させるために局所麻酔が注射されます。そして、腰部脊髄の周囲の麻痺させる部位(硬膜外腔)に針が挿入されます。
その後、針を通して、カテーテルが硬膜外腔に通されます。そして針は慎重に抜去され、カテーテルは薬剤の定期的または連続的注入のために、適切な位置に留置されます。カテーテルは抜け出るのを防ぐために背中にテープで固定されます。

 

硬膜外麻酔の種類は?

現在、基本的に2種類の方法が行われています。麻酔薬の用量や組み合わせは、病院や麻酔医によってが異なります。この点について、あなたはその病院の処置担当者に、そこの実際について確かめましょう。


・通常の硬膜外麻酔

カテーテルが留置されたのち、麻薬と麻酔薬の配合剤が、硬膜外腔へ輸液ポンプまたは定期注入で投与されます。フェンタニルモルヒネなどの麻薬は、ブピバカイン、クロロプロカイン、リドカインのような高用量の麻酔薬の一部を置換するために添加されます。
これは麻酔の悪影響を軽減するのに役立ちます。あなたはベッドにいながら食事をすることについて、病院の方針を尋ねたいと思うでしょう。

 

・脊髄麻酔と硬膜外麻酔の併用(脊硬麻) または ”歩行可硬膜外麻酔”

麻薬、麻酔薬、またはその配合剤の初期量を、脊髄がある脊髄腔に投与(脊髄麻酔)すると同時に、硬膜外にカテーテルを留置する。これにより、ベッドでの移動がより自由となり、介助による体位変換もしやすくなります。最初の脊髄麻酔が不十分であれば、カテーテルを通した硬膜外麻酔をいつでもリクエストできます。
硬膜外麻酔が行われた後の、移動や飲食について病院の方針については確かめましょう。
これらの薬剤の使用により、筋力、身体バランス、身体反応は減弱します。脊硬麻は4~8時間の麻酔効果が期待できます。

 

硬膜外麻酔のメリットは?

  • 分娩が長引いても休息が取れます。
  • 分娩の苦痛を軽減させることにより、より肯定的な出産体験となる女性もいます。
  • 通常、硬膜外麻酔により、覚醒状態を保ち、出産に積極的になることができます。
  • 帝王切開となった場合、硬膜外麻酔により手術中は起きていることができ、術後は有効な鎮痛が得られます。
  • その他の陣痛緩和が、もはや助けにならない際に、硬膜外麻酔は疲労困憊、異常興奮、疲労を緩和させます。
  • 硬膜外麻酔は、出産経験に休息、リラックス、集中、積極的参加を促す力をもたらします。
  • 硬膜外麻酔による無痛分娩は、絶えず改善されており、その成果の多くは経験による熟練のおかげです。

 

硬膜外麻酔のリスクは?

  • 硬膜外麻酔は急な血圧低下を引き起こすかもしれません。そのため、胎児への十分な血流を守るために、母親の血圧は定期的にチェックされます。血圧が急激に低下した場合には、静脈輸液、薬剤、酸素などの投与が必要になります。
  • 脊髄液の漏出によるひどい頭痛を起こすことがあります。1%未満の人がこの副作用を経験します。症状が持続する場合には、”血液パッチ”と呼ばれる、硬膜外腔にあなたの血液を注入する手技により、頭痛を軽減できます。
  • 硬膜外麻酔が施行されると、ベッド上で左右に寝返りすること、胎児心拍数を持続的に監視することが要求されます。同じ姿勢を続けると分娩の進行が遅れたり、停止したりすることがあります。
  • 震え、耳鳴り、背部痛、刺入部の痛み、嘔気、排尿困難などの副作用の可能性があります。
  • 硬膜外麻酔により、分娩時の”息み”が困難となったり、薬剤投与や、鉗子分娩や帝王切開などの医療介入が必要になることがあります。そのような場合に、通常どのような介入が行われるのか、バースプランを作成する際に、医師と話し合っておきましょう。
  • 分娩後の数時間、下半身が麻痺するかもしれません。麻痺のために、歩行時には介助が必要になります。
  • まれな事例として、カテーテルが挿入された領域に永久的な神経損傷を起こすことがあります。
  • 研究としては少し不確かですが、多くの研究では、母乳哺育が困難となる赤ちゃんがいることを示唆しています。その他の研究では、赤ちゃんが呼吸抑制を起こしたり、分娩時の胎児の位置異常、胎児心拍数変動の増加により、鉗子分娩、吸引分娩、帝王切開、会陰切開の必要性が増加すると示されています。

 

硬膜外麻酔についてよくある質問

 

硬膜外麻酔の留置は痛い?

この答えは、あなたが誰に尋ねるかによります。ある女性は、硬膜外麻酔で背中の麻酔領域に少し不快感を感じたとか、カテーテルが留置される際に圧迫感があったと表現します。

 

硬膜外麻酔はいつ留置されますか?

通常、硬膜外麻酔は、子宮口が4~5㎝開大し、真の活動陣痛となった時に留置されます。

 

硬膜外麻酔は分娩にどのように作用しますか?

硬膜外麻酔は分娩を減速させ、子宮収縮を弱めることがあります。この場合に、分娩を促進するために薬剤オキシトシンが投与されるかもしれません。

 

硬膜外麻酔は赤ちゃんにどのような影響がありますか?

既述のように、新生児への硬膜外麻酔の影響に関した研究は、多少曖昧であり、さまざまな要因が新生児の健康に影響を及ぼしている可能性があります。これらの薬剤がどのくらい影響するのかについて、事前の決定は困難であり、投与量、分娩時間、個々の赤ちゃんの体質により異なります。

投与量、薬剤は多様で、研究の具体的情報は一般に入手できません。副作用の一つの可能性としては、母乳哺育の際に、赤ちゃんが、”吸啜(乳首への吸いつき)”に苦労することがあります。もう一つは、子宮内で胎動が鈍くなったり、分娩時の胎位(胎児の位置、向き)のトラブルが生じるかもしれません。

また、これらの薬剤は、新生児の呼吸抑制や、胎児の徐脈を引き起こすことが知られています。薬剤は赤ちゃんに障害は起こさないかもしれませんが、新生児に微妙な影響を与える可能性があります。

 

硬膜外麻酔を留置した後、どのように感じますか?

子宮の神経は、最初の薬剤投与から数分以内に麻酔が効き始めるはずです。おそらく10~20分で十分な麻酔効果を感じるでしょう。麻酔の量が足りなくなると、さらに追加量が、通常は1~2時間ごとに投与されます。

硬膜外麻酔のタイプや投与量によっては、ベッド上での臥床に制限され、起き上がったり、移動したりはできません。

下半身が麻痺して排尿が困難となるため、分娩が数時間以上になると、おそらく導尿処置が必要になります。分娩が終了すると、麻酔のカテーテルは除去され、麻酔の効果も通常1~2時間で消えます。

人によっては、麻酔薬の効果が切れると、産道周囲の不快な灼熱感を経験します。

 

息むことはできますか?

硬膜外麻酔のため、子宮収縮を感じられないことがあります。陣痛を感じない場合は、息むことが難しくなるかもしれません。このため、赤ちゃんは、産道を通るための追加の手助けが必要となることがあります。これには通常、鉗子が使用されます。

 

硬膜外麻酔はいつもうまくいきますか?

ほとんどの場合、硬膜外麻酔は分娩時の陣痛緩和に有効です。中には痛みを感じると不満な人もいれば、身体の片側だけ効いたと感じる人もいます。

 

硬膜外麻酔が禁忌などで施行できない場合は?

以下のいずれかに該当する場合には、硬膜外麻酔は陣痛緩和の選択肢ではないかもしれません。

  • 血液凝固抑制剤(ヘパリンなど)を使用している
  • 血小板数が少ない
  • 出血、ショック状態
  • 背中に感染症がある
  • 血液感染症がある
  • 子宮口が4cmまで開大していない
  • 硬膜外腔にカテーテルを留置できない
  • 分娩経過が早く、薬剤を投与する間がない

 

妊娠中や分娩中に、病院の担当者に確認するべき事項

  • 硬膜外麻酔に使われる薬剤の配合や投与量は?
  • 赤ちゃんへの薬の影響は?
  • 起きて歩くことはできますか?
  • 飲食物はどのようなものが摂取できますか?

              原文最終更新日 2017年3月24日

無痛分娩は日本で普及しない

最近、無痛分娩による医療事故の報道が続き、現役産科医としては、大変残念な思いです。確かに無痛分娩を希望される方は増えていますが、実はこれからも、日本で正常分娩における無痛分娩が普及することはありません。(どうして? と思うかもしれませんが……)

私が在籍する産科病院では年間1800~2000件の分娩があります。無痛分娩に必要な硬膜外麻酔の手技ができる医師は3名おり、1人は米国の大学で産科麻酔の研究をして学位を取った方です。いずれの医師も、分娩の経過などで必要と判断した場合には、ごくまれに、この硬膜外麻酔を行うこともありますが、妊娠中の健診で、「お産は無痛分娩にしてほしい」と希望される方には、「残念ながら、当院は無痛分娩に対応していないので……」と説明し、どうしてもという方は、無痛分娩に対応している施設を紹介しています。
病院の経営陣からは、幾度となく「妊婦の希望に応えて無痛分娩はできないか? 病院のアピールにもなる」と提案されてきましたが、「現状では困難」と現場の医師の意見は一致しています。

WHO(世界保健機関)による「正常出産のケア(翻訳)」では、

「正常分娩において、硬膜外麻酔による無痛分娩はしばしば不適切に行われている」として注意喚起されています。
無痛分娩は、先進国の先進的な分娩管理として認められているわけではありません。本来なら必要なかったかもしれない陣痛促進剤や、人工破膜、計画分娩、帝王切開など、分娩への医療介入は増えます。なにより、無痛分娩の割合が多い米国やフランスは、日本よりも周産期死亡率や母体死亡率の高い国であり、決して母子にとって安全な国ではありません。

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今回のように、硬膜外麻酔で腰部から入れた麻酔薬が脊髄腔に直接入り、下腹部だけでなく胸部の呼吸筋まで麻酔が効いてしまい、意識があるのに呼吸ができない状態(全脊髄麻酔と言います)となるのは、どんな優秀な麻酔医でもおこりえる合併症です。むしろ経験豊富な医師ほど経験している。
その場合、適切な対応を行うことが重要です。具体的には、呼吸筋の麻酔が切れて、自分で呼吸ができるようになる(120分以上)まで、人工的に呼吸を続けさせることです。経験があればさほど難しいことではありませんが、問題は一般の予定手術ではなく、いつ始まるか判らないお産の麻酔としてどうか?ということです。

現在、産科病院に求められる医療レベルを保つためには、たとえ正常出産であっても、緊急の処置や帝王切開に備えて、分娩を担当する医師の他に、少なくとも15~30分で対応できる待機医師が必要です。さらに無痛分娩では、麻酔管理する医師が1人必要になり、合計3人の医師が拘束されます。
年間2000人の正常分娩を扱う病院では、1日に10人以上生まれる日もあれば、お産のない日もあります。たまに、10分間に3件のお産が重なることもあります。仮に分娩の集約化が進んだとしても、1日24時間、365日、分娩担当医1人、待機医1人、麻酔医1人の勤務体制を、今の日本の医療環境で実現することは、簡単ではありません。

2000年のことですが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学周産期センターを見学した際、年間分娩数は3000件ほどでしたが、時間外の体制は産科登録医2名、外科・救急兼任の一般レジデント医1名、麻酔科レジデント1名が当番制で院内に待機しており、一般レジデント医は分娩や硬膜外麻酔にも対応していました。産科だけの発想では、安全で適切な無痛分娩は実現できません。

分娩時の母体死亡や重大な後遺症は、分娩2万~数万件に1人の割で起きます。それは、分娩数が年間1000件の施設で20年間に1回程度起こる頻度ということです。今回の報道では、年間数百件の無痛分娩に数年間対応した一部の施設が、マスコミの取材を受け、無痛分娩のメリットなどを紹介していますが、分娩管理の本当の怖さを知っているとは思えません。 

 

akachann99.hatenablog.com

  

小股の切れ上がった、毛深い "いい女"

大学や自治体主催のミスコンテストが中止になり、女性を審査するような言動には厳しい時代ですが、ヒト生態学的には、”いい女”に男が群がり、その群がった男の中から、女が男を選んで子孫を残すというのが、平和な時代のオスとメスの自然で理想的な姿です。

かつてのテレビ番組「ねるとん紅鯨団」では、男が”いい”と思う女性の前で手を差し出し告白すると、しばしば競合する他の男から「ちょっと待ったぁ~」と声がかかり、どの男の告白を受けるのか、「ごめんなさい」と断るのか、女性が決める。というシーンが毎週繰り広げられましたが、ヒト生態としては、とても健康的な番組でした。

”いい女”の基準は主観的で多様であり、時代により変化します。オリンピック競技のように客観的数字や勝敗で競うことができないから、さまざまな趣旨のミス(メンズ、おかま)コンテストが行われ、たとえ、ミスコンテスト世界一であっても、日本人にはピンとこないこともよくありますが、それで良いのです。ミスコンに厳しい人は、むしろ、多様な価値観を理解していないともいえます。

その昔、江戸の町は男性過剰の社会でしたが、男たちのうわさ話の“いい女”には、
「小股の切れ上がったいい女」
「毛深い女は情が深くて、床上手」
などがありました。

小股の切れ上がったいい女

広辞苑:女の足が長くすらりとした粋な体つきをいう。
明鏡 :股についての、ちょっとした動作についていう語。

しばしば「 ”小股”とはどの場所か?」と議論されますが、実は、「和服で粋に歩くさま」を示しており、身体の部位の名称ではありません。両足立ちしている人の身体の一部を指さして、ここが”小股だ”とは言いません。その点で、広辞苑よりも明鏡の方がより正確です。

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・相撲の決まり手「小股すくい(掬い)」は、投げを打って相手が足を送って堪えるときに、その足の膝関節の内側を片手で掬い上げて倒すことですが、これは、相撲の取り組みの流れの中で、この部位を手で掬うと相手を倒せるツボとなる”力点”があるということです。昼寝をしているお相撲さんの膝の内側を小股とは言いません。

・女性を美しく見せるダンスのステップに、フラメンコのゴルペ、プランタ、アルゼンチンタンゴのボレオなどがあります。その基本は、顔は正面、上半身をあまり上下させず、片足加重で太ももは閉じて、浮かせた足の膝から下で、リズムよく振りをつける共通点があります。
動物の求愛ダンス、先住民の踊り、阿波踊りの”女踊り”などにも、似た動きがあり、本能的に異性を引きつけるしぐさ(lovable gesture)の一つといえます。

・習得に3年かかるとされる花魁の内八文字、外八文字歩きでは、重い衣装を着て、片足加重で重心移動しながら、高下駄で練り歩きますが、この様式化された所作は、鍛えられたインナーマッスル腸腰筋)やハムストリング筋がなければ不可能です。日本舞踊などの粋な立ち姿も片足加重が基本です。
片足に重心が乗って安定した歩きができる(小股の切れ上がった)女性は、下半身の筋肉だけではなく、日々の生活も締まりがある(だらしなくない)と想像させる、ということです。

 

毛深い女性は情が深くて、床上手

毛深い女性は情が深く、いい女とされました。毛深いとはアンダーヘアが豊かということです。床上手になる理由として、ホルモン的なもの、心理的なものが考えられ、詳細は確認できませんが、確かに、身体の他の部位の毛は薄く、皮膚は薄桜色できめ細かく、あそこだけが毛深い人がおられます。日本では、アンダーヘアは毛深くても気にならない(むしろ好み?)という男性も多いようです。最近、アンダーヘアを処理する女性が増え、将来、日本男性の意識が変わるのか、興味深いところです。

 

 

アンダーヘアを処理する人は性病になりやすい

BBC Newsで、アンダーヘアを定期的にトリミングや全除去している人は、性感染症の危険性が高くなると報道されました。

元になったのは次の研究論文です。

「Correlation between pubic hair grooming and STIs」BMJ Journals 2016 Dec 05

この信頼性の高い医学誌に掲載された内容によると、アンダーヘアを全除去したり、週に1回以上処理している人は、処理を全くしない人に比べ、皮膚接触による性感染症、たとえば性器ヘルペス、HPV(子宮頚癌原因ウイルス)感染を経験するリスクが3.5~4倍高いとのことです。

「アンダーヘアの処理は衛生的」とする考えが一般的な国もあり、警鐘を鳴らす結果となりました。性感染症予防のために、さらに詳細な研究が期待されています。

日本でもアンダーヘアを処理している女性が増えて、8~9割がしているとのネット情報もありますが、これは都会の婦人科クリニックや、皮膚科、エステ店など、かなり偏った集団のデータと考えられます。(おそらく勧誘の意図があります)

通常の産科外来には、一般女性が妊娠して来院されますが、陰毛を残らず除去している人や、明らかな形にトリミングしている人は、少数派で1割もいません。

夏の水着のシーズンならともかく、年中、明らかな処理をしている人には、確かに性感染症が多い印象があります。

 

定期的に処理している人に性感染症が多いのは、2つの要因が考えられます。

性器周囲の皮膚に小さな傷ができる。
健康な皮膚は、様々なメカニズムで外部からの病原菌の侵入を防いでいます。目に見えないような小さな傷でも、その防護壁が破れ、感染しやすくなります。
以前は、帝王切開などの腹部手術の前に、手術する範囲をカミソリでうぶ毛まで剃っていましたが、それは術後の創部感染の原因になることが判明し、現在では、刃が直接皮膚に触れないバリカンで、必要最小限のカットを行なっています。

性行動が活発な傾向がある。
アンダーヘアを習慣的に処理している人は、そうでない人に比べて、経験人数が多く、セックス頻度が高いと報告されています。当然、性感染症に接する機会も増えることになります。

 

妊娠検査薬が陽性に出て、初めての産科受診の前に、「私、毛深いから、処理をしてから受診した方がよいかしら?」と悩む人もおられるようですが、ありのままで受診されることをお勧めします。地域差もあると思いますが、気を利かせたつもりが、あらぬ誤解(プロの女性?)を招くことにもなりかねません。

「卒乳」と「断乳」 本当は深い問題

2002年、母子手帳断乳に関する記載が削除され、「断乳」という言葉は過去のものになりつつあります。しかし、産後の職場復帰や保育所問題も絡んで、悩ましい事情をかかえた母親に、適切な計画的卒乳(断乳)を指導できないのでは母乳の専門家と言えません。

順調に半年以上、母乳育児を続けてきたお母さんが、事情があって母乳をやめたいと専門家に相談した時、「子供が母乳を欲しがっているのならやめる必要はない」と意見されただけだった、という話もあります。

【卒乳】母乳で育ってきた赤ちゃんが、徐々に母乳を必要としなくなり、母乳哺育から卒業していくこと

断乳母乳で育ってきた赤ちゃんの母乳哺育を、ある時期に、母親が意図的に終了させること。

卒乳と断乳のどちらが自然なのでしょう? 現在、多くの母乳専門家は卒乳が自然と考えていますが、本当は違うと思います。

NHKダーウィンが来た生きもの新伝説」では、地球上のさまざまな生物の営みが紹介され、哺乳類の回では、必ず生殖・出産・育児と、母と子の感動的な子別れのシーンがあります。

家畜以外の哺乳類は全て、必要十分な母乳哺育ののち、母親は、あらかじめプログラムされていたかのように本能的に、母乳哺育を中断し子別れします。決まった時期に子供を突き放す場合もあります。

哺乳類であるヒトの祖先、クロマニヨン人も、日本列島の縄文人も、新生児・乳児期を(幸運に恵まれ)無事に育てることができたのちには、ある程度決まった時期に断乳をしてきたと考えられます。

確かにWHO(世界保健機構)は、「2年を超えても授乳を続けてよい」としていますが、「2年を超えて授乳を続けるべき」としているのではありません。乳児が安心して飲める水がない国や、乳幼児の栄養が十分ではない国では、母親というフィルターを通した飲料が最も安全ですが、最良ということではありません。

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◆計画的卒乳(断乳

順調に1年以上の母乳哺育を続けてきたお母さんが「そろそろ母乳を止めようかな?」と思うのは、本能的な感覚です。多くの場合、子供がタイミングを教えてくれますが、母親が子供の自立を感じる、生後1歳から1歳半の間と考えれらます。

それは、子供が立って歩く(重力に逆らって立つ)ようになり、自らビタミンD、カルシウムを摂取して、くる病を防ぐ必要がある時期であり、目の前にあるものを手で口に運ぶ(何でも口に入れたがる)ようになる、母親にとって次の妊娠に適したタイミングでもあります。

計画的卒乳(断乳)は季節や子供の体調に配慮した上で、ある程度計画的に行うと子供や授乳のトラブルも少なくて済みます。ただし、やむをえず早期断乳する際も、少なくとも生後半年は母乳哺育を優先しなくてはいけません。

 

◆桶谷式など

日本では、1950年頃まで自宅分娩が90%以上でした。1980年代に病院でのお産が90%以上となりましたが、母乳哺育は医学の対象と見なされず、医師や病院助産師の多くは粉ミルクメーカーの手先のようなことをしていました。

その時代に、母乳保育や育児の経験や知恵をまとめた産婆・助産師が全国各地におり、最も有名なのが桶谷式です。

桶谷式の断乳では、おっぱいに「へのへのもへじ」の絵を描いて驚かせたり…、のようなことが強調されますが、実際に、一連の流れを経験すれば、母親にとっては母乳保育の完走ゴールであり、子供にとっては最初の自立(子供の表情から本人の意思が伝わってくる)であり、成人式(社会が個人を認める)以上に親と子の信頼感あるコミュニケーションであることが分かります。

もし私が、ヒト生態を記録する映像作家だったら、この計画的卒乳(断乳)をヒト育児の感動クライマックスにもってくると思います。

◆乳幼児のくる病

最近、“くる病”が増えています。

“くる病”は、ビタミンDが不足して、乳幼児の骨の発育が障害され、背骨や四肢の発育不全、異常な湾曲を生じる病気です。ディズニー映画「ノートルダムの鐘」の主人公カジモドの病気で、日本でも1960年代までは、時々、街で見かけました。

過去の病気と思われていた“くる病”が、再び増えた原因はいくつかありますが、ほとんどが母乳栄養の乳幼児です。良いはずの母乳哺育のどこに問題があるのでしょうか? 三つの原因が考えられます。

1.母親のビタミンD摂取不足

 100年前のアメリカで、乳幼児が牛乳由来の人工乳を飲むようになりくる病が流行したため、人工乳にビタミンDを添加するようなりました。当時、適度に日光に当たっている健康なお母さんに母乳哺育された乳幼児はくる病にならないとされました。ところが、食生活の変化で、母乳中のビタミンDが不足し、ビタミンD添加の粉ミルクと逆転しました。

2.日光照射の不足

 ビタミンDは、日光照射により皮膚でも作られています。外出不足や過度な紫外線対策により、ビタミンDが欠乏しています。一日中、家にいて生活できる便利な時代、適度な日光照射は必要です。日本では、晴れた日に顔と肘から先の腕を15分程度、直接日光に当てるだけでビタミンDが作られると考えられています。

3.卒乳・断乳の遅れ

 卒乳が遅れた方の中に、乳幼児のビタミンD不足がみられることがあるのは事実です。自分で歩くことのできない時期に母乳が良いことは確かですが、生物学的に適したタイミングで計画的に卒乳(断乳)することは、ヒト生態として理にかなっています。

最新、お産事情。帝王切開の方が安い?

◆米国医師会雑誌の2017年1月3日配信記事
「中国における帝王切開率(帝切率)の地域差と傾向 2008~2014」
によると、
・中国の帝切率は2008年の28.8%から、2014年の34.9%に増加した。
・2014年、中国の31州の間で帝切率に4.0%~62.5%もの地域差があった。
・帝切率の全体的な増加傾向にも関わらず、2014年、17の大都市圏のうち14カ所でピーク時よりも4.1~17.5%帝切率が減少した。
・特に帝切率が減少した4つの大都市圏で母体死亡や周産期死亡の増加はなかった。
とのことですが、実は、これには隠れた事実があります。

◆中国人妊婦の話
かつて、中国の方はすぐに「帝王切開にして!」と訴えることが多く、帝王切開を先進的な出産と考えているフシがありましたが、ここ数年、中国の方の出産が増え、印象が変わってきました。
先日も、中国東北地区の大都市圏出身の方が「第2子の出産・産後ケアを日本で」と希望され来院しましたが、前回3600gの子を中国で普通分娩されたとのことで、
「一人目の出産はがんばりましたね。赤ちゃんが大きめと判って、帝王切開を勧められませんでしたか?」と聞くと、
彼女は少し“ムッ?”とした表情になり、
「医者にお金を払って、自然分娩を待ってもらったんです」
と、次のように教えてくれました。
中国でも、安易な帝王切開をしたくないと考える妊婦は増えているのに、医療機関があれこれ理由をつけて、すぐに帝王切開してしまう。幸い、彼女を担当した医師は優しい産科医だったので、希望を聞いて分娩になるまで待ってくれたが、VIP用の分娩室を貸し切るために、追加料金が必要だったとのことでした。

医療事情の悪い田舎の病院や、都市部でもお金がなければ、少しのことで帝王切開されてしまうと、彼女は不満顔になったようです。
産科医として、彼女の気持ちも、医療機関の思いもよくわかります。現在、分娩をしっかり管理しようとすれば、いつになるか判らない分娩のために産科医、助産師の拘束時間も長くなり、帝王切開よりも実質コストのかかった自然分娩になることがあります。
中国人妊婦の中には、お金がかかっても良いから自分が希望する分娩・産後のケアサービスをしてほしいと遠方から来院される方もあります。

今回の配信記事の本質は、中国では経済力があれば、母子のリスクは変わることなく帝王切開率を下げることができるということを示しています。

現在、日本のお産も帝王切開率は上昇中ですが、すでに一部では、昔ながらの自然分娩のためのLDR分娩室に、オプション料金を設定してしている病院もあります。健康保険扱いや生命保険入院特約などもあり、近い将来、「帝王切開の方が安い」ということになるかもしれません。良いことではありませんが……、