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現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

食の考察 「葉酸」

葉酸は、乳酸菌の増殖を促す物質として、ほうれん草の葉から発見されたビタミンです。遺伝子DNAの複製やアミノ酸の合成を効率よく行うための補酵素として働き、胎児発生期やガンなど細胞増殖が盛んな組織で需要が増えます。

この葉酸を妊娠前~妊娠初期に摂取すると、無脳症や二分脊椎などの先天異常の発生が減少することが判り、1998年1月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、シリアルなどの穀物加工食品の全てに葉酸の添加を法律で義務づけましたが、全ての人に葉酸摂取を促すことが、公衆衛生的に正しいのか、実は判っていません。

妊娠中の葉酸摂取についても、全ての妊娠期間中、サプリメントで摂取することが望ましいとは言えません。

 

◆普通に日本食を食べておれば葉酸は十分摂取できる。

シリアルやスナック菓子、コーラなどで食事を済ますこともある国では、穀物加工食品に葉酸添加が必要かもしれませんが、日本では、平均的な日本食で、野菜、納豆・乳酸菌製品などの発酵食品から葉酸は十分摂取できると考えられてきました。

食の実態調査で、野菜嫌いやダイエットなどの影響により、近年、妊娠適齢期の女性の葉酸不足が指摘され、やむなく、サプリメントによる葉酸摂取も容認されてきましたが、本来は、食事から摂取するべきものです。

 

葉酸の過剰摂取の危険性

葉酸が不足している場合に、適量の葉酸摂取はがん予防になります。一方、葉酸を過剰摂取した場合には、むしろ、がん患者のがん細胞の増殖を促したり、家族性素因のある大腸がんや乳がんの発がんリスクを高める可能性があります。

世界がん研究基金によるガン予防の勧告「食物、栄養、身体活動とがん予防」の勧告8.食事のサプリメントでは、「サプリメントに頼らず、食事のみから栄養をとること。サプリメントはがんの予防に関しては勧められない」としています。

以前は、日本でもサプリメントは勧められないと記載されていましたが、最近の「がんを防ぐための新12か条(がん研究振興財団)」などでは、サプリメントに関する記載がなくなりました。これは日本らしい諸事情への配慮でしょう。

 

葉酸について

葉酸を多く含む食品は、レバー(肝臓)、ほうれん草などの野菜、発酵食品です。動物の肝臓は3分の2を失っても、元の大きさに再生する唯一の臓器ですし、発育期のほうれん草の葉を2、3枚ちぎっても、元の形に生えてきます。このような細胞の再生、増殖が盛んな組織に葉酸が多く存在していますが、盛んではない組織には、あまり存在しません。

この葉酸は、自然界の化学反応でもわずかにできます。地球上に生命(≒DNA)が誕生し、効率的な増殖のために利用するようになり、生命が自ら作るようになりました。全ての生物(微生物・植物・動物)に必要ですが、動物は、食物連鎖により食物から葉酸を摂取するのが効率的で、自身の体内では作られなくなりました。

自然界では、季節により葉酸の摂取は変動します。繁殖期に野生の草食動物が新芽や若葉を選んで食べたり、アフリカのメスライオンが獲物の肝臓を優先的に食べて、口の周りを血だらけにしている映像を見たことがあると思います。動物にとって“いただきます”は、健康な命をいただくということですが、必要以上に葉酸を摂取することはありません。

葉酸コエンザイムQ10などの補酵素は細胞の活性を高め、アンチエイジング効果があるとされますが、継続的な摂取は、”がん” や “前がん状態” の細胞の活性まで高めてしまう可能性があります。同じがんでも、若い人の方が進行が速い。

 

◆妊婦はどうしたらよい?

妊娠と判明する前から、赤ちゃんの重要な部分が作られており、葉酸は大切な役割を果たします。妊娠の可能性がある女性は、日常的に、健康な食物から葉酸を摂取することが大切です。

野菜嫌いなどで葉酸摂取が不十分な場合、妊娠前から妊娠12週頃まで、市販の葉酸サプリメントの利用も一つの方法ですが、最良の方法ではありません。

無脳症、脳瘤、二分脊椎などの出産経験のある方の場合、1日4mgの葉酸摂取が再発防止に有効であるとされていますが、これは、一般妊婦への推奨量の10倍量になります。医師と相談の上、再発予防として、妊娠前から妊娠12週までの期間、サプリメントではなく葉酸欠乏症治療用の葉酸錠を服用をします。継続して服用する量ではありません。

大河ドラマ「真田丸」に秘められた作者 三谷幸喜の想い

NHK大河ドラマ「真田丸」 第36回「勝負」の関ヶ原の戦いが話題です。

大河ドラマ関ヶ原の戦いらしい、大掛かりな合戦シーンかと思いきや、宴席に現れた佐助(藤井隆)の報告だけで済ませてしまう潔さ。本能寺の変の大胆な省略にも驚きましたが、当時の情報伝達手段を考えれば、むしろ、リアリティーを感じます。

一方、真田昌幸草刈正雄)、信幸(大泉洋)、信繁(堺雅人)の犬伏の別れの一幕には、たっぷりと時間がかけられ、メリハリの効いた素晴らしい作品です。

誰が滅び、誰が生き残るか、誰にも予見することができない戦国時代、中流の領主「真田家」がいかにして生き延びていくのか?
北条家の滅亡や、聚楽第の落書き事件、豊臣秀次の妻子侍女の処刑など、凄惨な話に対比させながら、丁寧に描かれているのは家族愛。

時代が違っても、人間の本質は変わらない、三谷さんの家族愛とは?
以下は、真田信繁真田信之豊臣秀吉徳川家康の正室、側室一覧です。
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真田信繁 (堺雅人
  ・きり (長澤まさみ
  ・梅  (黒木華
  ・春  (松岡茉優)正室

  ・たか (岸井ゆきの)側室

真田信之 (大泉洋
  ・稲  (吉田羊) 正室
  ・こう (長野里美)前妻
  
豊臣秀吉 (小日向文世
  ・寧  (鈴木京香)正室
  ・茶々 (竹内結子)側室

徳川家康 (内野聖陽
  ・旭  (清水ミチコ)正室
  ・阿茶局斉藤由貴)側室
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正室と側室の配役には、いずれも役者として納得できる見せ場があります。

正室と側室のドラマは、嫉妬と対立を描くのが常套ですが、きり(長澤まさみ)と梅(黒木華)の場面でも、嫉妬するのかな? と思わせて肩すかしの展開。
稲とこう、寧と茶々、旭と阿茶局の場面も印象的で、いずれも正室と側室が共に主人を支えます。

三谷さんは大河ドラマの登場人物になりきって作品を描いており、中でも、小日向さんが演じる秀吉は、策略に富んだ知将秀吉、子供のように無邪気な秀吉、冷徹で残酷な秀吉、そして、50歳を過ぎて初めて子供を授かる秀吉、いずれも作者三谷さんそのものです。

寧に甘える秀吉、茶々への恋と嫉妬には、子供じみた願望と判った上で、三谷さんの前妻小林聡美さん、今の奥さん、お二人への想いが表れているかのようです。

当時、女性だけが特に抑圧されていたわけではなく、正室と側室が共に主人を支えるのは、選ばれた女性にとって最も賢い家族愛の姿だったのだろうと思います。

平和な時代を謳歌してきた日本では、子孫を残す、一族を守る、家族を守ることへの本能的な気迫に欠けていますが、いずれ再びそのような社会になる可能性はあると思います。

大河ドラマ真田丸」はいよいよ佳境に入り、歴史の大渦の中、信繁の家族愛、正妻の春(松岡美優)ときり(長澤まさみ)を巡る話などがどう描かれるのか、とても楽しみです

妊娠中の果物摂取が、子供の知能を向上させる?

Yahoo!ニュースで「妊娠中の果物摂取が、子供の知能を向上させる」

と紹介され、賢い子供を産みたい母親らの関心を引いています。さっそく、外来で「あれは本当ですか?」とコメントを求める方も……。

元記事は、8月30日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の配信記事です。

WSJといえば、世界最大の発行部数を誇る経済新聞(Wikipedia)ですが、
どうして経済誌がこの記事を配信したのか? 妊婦や生まれてくる子供のことを考えた記事なのか、少し調べてみました。
(2016-09-03時点、日本版WSJ、米国版WSJで閲覧可能)

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記事によると「母親が果物を多く摂取すると、子供の知能指数が高くなる可能性がある」とのことですが、元となったカナダ・エドモントンアルバータ大学の報告は、あくまで予備段階の研究のようです。

「母親が果物を適切に摂取するのは望ましい」ということに異論はありませんが、それで子供の知能指数が高くなるとはどういうことか? 論文の原本を調べてみました。

「妊娠中の果物摂取が子供の知能向上に関連する」EBioMedicine 8(2016) 331-340(英文)

報告は二つの研究からなっています。
1)カナダ、エドモントンで募集された、妊娠中期、後期の妊婦への質問調査と、その後、生まれた子供の1歳時の発達(ベイリー発達検査法)を比較した調査報告。
2)実験用に飼育されたのショウジョウバエに果汁を与え、記憶力と学習能力を向上させる実証実験。

妊婦への主な調査内容
・既婚か 
・収入が6万ドル以上? 
中等教育後の学歴 
・(子供は)白人か? 
・自宅での喫煙? 
・母親の年齢 
・食物摂取調査票 
・果実消費量(果汁を含む) 
・授乳期間など

調査結果と子供の発達検査を比較してみると、特に、妊娠中の果実摂取量と、1歳時点の認知・適応機能の発達に関連があることが分かったので、その結果をふまえてハエを使った実証実験が行ったとのことです。
摂取果実量から換算されるリコピンとフルクトースの摂取量との関係も調べられています。

この論文で気になった点
・子供の知能発達は、食物中の果実成分だけに左右されているとは考えられず、論理展開に飛躍がある。(著者らも認識しており、原論文では控えめな表現です)
・加工果実飲料についての記載が多く、生鮮果実については詳細がわからない。(生鮮果実を入手できない人や、食のライフ・スタイルを考慮した現実的な判断かもしれません)
・果実の成分で、主にリコピンとフルクトースだけに注目した理由が不明瞭。
・ハエの実験で使われた果実汁は、ミニッツメイドのオレンジジュースと、ハインツのトマトジュースと記載されていますが、通常このような論文で商品名が表示されることは少ない。

この論文を理解する予備情報
エドモントン:カナダ西部、アルバータ州の州都で、世界有数の農業地帯をひかえる農畜産物の大集散地。
ミニッツメイド:果実飲料のブランド名 本社は米国で日本では日本コカ・コーラと明治が販売している。果汁は濃縮還元製品。
・ハインツ:アメリカのピッツバーグに本社があり、販売量世界第一のトマトケチャップで有名な食品メーカーで、海外ではトマトジュースも販売している。
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表向きは、知能指数の高い子供がほしい妊婦へ向けた栄養指導のように見えますが、実は、いわゆる経済誌向けの記事のようです。
「妊娠中、習慣的に果実を摂取することが、子供の知能向上に役立つ可能性がある」ことは否定できませんが・・・

◆論文の印象のまとめ
・妊娠中の食生活を意識することは、子供の発達に良い影響がある。
・毎日、定期的に果物などの食物を過不足なく摂取する習慣は、子供の発達に良い影響がある。これは時間栄養学的な効果が大きいと考えます。
リコピンやフルクトースなどの特定成分を多く摂取するから優秀な子供になるとは、簡単には言えない。
・生鮮野菜、生鮮果物の摂取の不足が疑われる場合には果汁、野菜ジュースで補完可能かもしれない。
日本的には、毎日、生鮮果物を摂取できなければ伊藤園カゴメの果汁野菜ジュース(砂糖・塩分無添加)を摂取することで補うことが可能かもしれない。
・果物、果汁の摂りすぎによるカロリー過剰、妊娠糖尿病の発症に注意が必要。 

 

マタニティー・ワークプラン 働く女性と妊娠

なぜ、マタニティー・ワークプランが必要か?

 ・妊婦健診の特性

通常の診察では、症状(主訴)があり、それを元に診察や検査を行い、診断や治療方針が決まりますが、妊婦健診では、母児が元気な事を確認するのが目的なので、普通は、特別な診断や治療などはありません。

妊婦の皆さんも「妊娠は病気ではない」と言われ、気になる症状があり不安になっても、医師や職場に対して「こんなことを訴えて(お願いして)良いのか?」と、自分からは言い出しにくいものです。

妊娠中、産後に仕事をどのようにやりたいか、本人の気持ちをふまえて、医師と相談し、職場にあらかじめ伝えることは重要です。

 

・妊婦が働くということ

20年ほど前までは、日本を代表する金融、製造メーカーであっても、産休制度は有名無実、女性は結婚と同時に退職、または、妊娠したら産休までに退職が不文律で、産後に育児休暇を取って職場復帰するなどは問題外でした。

その状況はかなり改善されたとはいえ、今でも、口に出しては言わないだけで、事業主や上司の中には「妊婦は厄介」という意識を持つ方もいます。

「うちに産休制度はない」、「これまで産休を取った女性はいない」と言い切る会社もありますが、「会社として、今回は産休制度を導入したいが、どうしたらよいか?」と、前向きな会社も増えました。

一方的に「妊娠中はこうあるべきだ」と建前論を職場につきつけるのは解決策になりません。職場の状況や環境、妊娠の経過、本人の希望をふまえて、職場にうまく伝えることが必要になります。

 

マタニティー・ワークプランの実際

妊婦健診では、妊娠12週頃までに分娩予定日が確定し、一般的に産休に入る妊娠34週0日も決定します。また、その人の合併症(妊娠糖尿病・妊娠高血圧・内科合併症など)や、それまでの妊娠・出産・流産歴(早産経験・流産経験)などから、妊婦それぞれの注意点がある程度はっきりします。

この時期に、妊婦の希望をふまえた医師の指示として、事業主(上司)に提示できれば効果的です。

厚生労働省が勧める「母性健康管理指導事項連絡カード」を活用して、妊婦と医師が作戦を練って連絡カードを作成します。

このカードには、妊娠経過に異常がある(病的な)場合の標準措置に関する指導以外に、標準措置と異なる特記事項についての記入欄があります。妊娠経過が異常とは言えなくても、連絡カードの活用で無理なく仕事が続けられる工夫が重要です。

 

連絡カードの記入例

 「標準措置と異なる特記事項」の記入例(太字)を挙げます。

 

・夜勤業務は免除してください。

 職場によっては(看護師など)、日勤が続くより、むしろ夜勤を希望する方もいます。

・時間外勤務、残業は避けてください。

 どの程度まで許容できるか、記入内容は本人と相談です。

・(保険外交員、不動産会社など)新規契約ノルマの軽減をお願いします。

 大手の会社では、妊娠中は内勤に変えてくれる所も多いと思います。

 新規契約のインセンティブを放棄できず、頑張ってしまう方もいます。

・短時間(半日)勤務をご検討ください。

・通勤の負担軽減のために、時差出勤をお願いします。

 通勤ラッシュを避け、座って通える時間帯の方がストレスが減ります。

・通常、産休は34週0日(○月○日)からになります。

 妊婦を雇用した経験のない職場や自営業で、一般的な産休入りをあらかじめ明示するのは効果的ですが、これをはっきりさせると、雇用中止となる場合もあるのでカードを出すタイミングは、本人と十分な相談が必要です。

・外回り営業についてはバイクの利用は控えてください。

 ヤクルトレディー、ピザ・弁当の宅配など、頑張ってしまう方もいます。

・妊娠中の間接喫煙に関して、職場環境の配慮をお願いします。

 最近は、ほとんどの職場で改善されていますが、接客、営業職の中には難しい場合もあります。できるだけ努力してもらえるように促します。

・妊娠中の泊りがけの出張は避けてください。

自分のために必要なセミナーなどで出張希望のある場合はOKですが、本人が気が進まない(時に嫌がらせ)ような出張指示は避けるように指示します。

・産休、育児休暇、その後の職場復帰を希望しておられます。ご検討ください。

女性社員が育児休暇を取った経験のない事業所では、育児休暇後の職場復帰などは諦めている場合もありますが、本人の希望があれば、ダメ元で書くこともあります。

 

akachann99.hatenablog.com

 

働く女性は流産しやすい? 働く女性と妊娠

国労働組合総連合(全労連)の女性部がまとめた調査結果が、ニュース配信されました。

www.bengo4.com

(弁護士ドットコム)

「働く女性は流産しやすい?」と思わせる内容の記事ですが、実は、そうではありません。

◆流産の実情

妊娠検査薬が市販されるようになり、以前より早く産科施設を受診される方が増えました。おかげで禁酒禁煙、服用薬の注意、流産・子宮外妊娠などの異常妊娠の早期診断など多くのメリットがありますが、一方、以前なら生理不順と区別がつかなかったような、ごく妊娠初期の流産も、はっきり診断されるようになりました。現在、妊娠検査が陽性に出て産科施設を受診した人のうち、約15%が流産されます。

もし仮に、流産せずに出産できた残りの85%の人が、次の妊娠で15%が流産すれば、さらに12.75%(0.85×0.15×100)、つまり、単純計算では2回の妊娠で、27.751512.75)%の人が流産を経験することになります。

実際には、1度しか妊娠しなかった人や、流産しやすい体質、流産しにくい体質の人など、正確な母集団の設定は困難なのですが、経験的に、妊娠したことのある女性の約4人に1人が流産を経験しています。 (過去の妊娠歴記録から)

これは専業主婦、自営業、中小企業勤務、また、使用人を抱えたお姫様であっても同じです。つまり、今回のアンケート結果は「働く女性も流産を経験する割合には差がない」ということを示しています。

◆妊娠と仕事

よく「妊娠中、どの程度仕事をして良いですか?」と質問を受けますが、例外的なケースを除いて、「日々の仕事は、これまで通りで良いですよ」と答えています。今回の報道に限らず、もし「働く女性は流産しやすい」という誤ったメッセージが広まると、女性の社会進出にもブレーキになりかねません。

自営業で休日がない、非正規で複数掛け持ちなど、健康的な生活を維持できないような仕事は問題です。

 

重要な事は、働く女性に限らず、妊娠経過には個人差があり、ふだんは経験しないような身体症状を感じることも多くなります。妊婦が不安にならないように、生活や職場の環境、雇用条件の柔軟な対応が求められています。

 

◆「マタニティ・ワークプラン」のすすめ

現在、多くの産科施設では、妊婦さんの「バースプラン」を参考に妊娠、出産、育児をお世話します。

(夫立会希望、会陰切開をしないでほしい、母乳だけで育てたいなど、全てかなえられるわけではありませんが)

同様に、働く女性が妊娠したら個別の実情に合わせて、本人、事業主、産科担当医が、妊娠中の仕事について情報を共有することが大事です。この際に、有用なのが次の連絡カードです。

厚生労働省 母性健康管理指導事項連絡カード

これまでは、何か問題がある時にだけ、診断書代わりとして使用されることが多かったのですが、妊娠経過が順調な人も含めて、母子手帳のように記入して、本人の意向を医師と相談の上、職場に伝えるカードとして利用します。

(「マタニティ・ワークプラン」は著者の造語です)

乙武洋匡さんの先天性障害と胎児超音波診断

最近話題の乙武さんには、自らの著書「五体不満足」にあるように、先天性四肢切断という障害があります。このような生まれつきの障害(先天異常)は、大きく2つに分類されます。

 

精子卵子が受精した段階で決定する、染色体や遺伝子の異常による先天異常

ダウン症などの染色体異常

・遺伝子の異常で起こる遺伝病

 

◆正常な受精卵が発育する過程で、外部からの要因により障害が起こる偶発的な先天異常

・先天性風疹症候群、先天梅毒などの感染症

サリドマイド、アルコールなどの薬物

・先天性絞扼輪症候群(羊膜索症候群)などの物理的外力

・その他(放射線など)

 

乙武さんの先天性四肢切断は、絞扼輪症候群に属しており、妊娠初期、何かの原因で身体の一部に癒着や引きつれを起こし、その部位の発育が制限されます。通常は羊水の潤滑作用により障害は起きませんが、健常者との違いは紙一重で、わずかな偶発的な変化が原因になります。

パンの生地をこねる時に打ち粉が足りないと張り付いて、きれいに成形できないような感じです。

 

このような異常は、妊娠初期の超音波検査で診断できるようになりました。

◆あるケース複数の実例を元に創作)

妊娠12週の超音波検査で「胎児の片腕の欠損」が疑われ、「超音波検査で判明した胎児異常は教えてほしい」という同意を得ていたので、本人と夫に「まだ確定できませんが、片方の腕が欠損している可能性があり、妊娠16週(妊娠5ヶ月)に再検査が必要です」と説明しました。妊娠の喜びが一転、ご夫婦は不安な日々を過ごされたようです。

16週に診断が確定し、「やはり、赤ちゃんの片腕(上腕)の根元から先が欠けています。もう片方の腕と両脚は正常です」、さらに詳しい説明として「可能性として、先天性絞扼輪症候群が考えられ…」と、この異常の場合、いつも乙武さんには申し訳ないと思いながら、彼の名前を例に挙げて「これは乙武さんと同じタイプの障害で、染色体異常などの可能性は低いのですが…」と話した段階で母親は号泣され、日を改めることにしました。

乙武さんと同じ知性を持って生まれるとは限らず、単純に「頑張れ」と言うわけにもいかず…、結局、その後の面会で妊娠の継続を断念されました。このような場合に同様の選択をされる方は多く、今後、乙武さんと同じ障害の人はいなくなる可能性もありますが、果たしてそれで良いのか難しい課題です。

 

乙武さんの最近の話題について(産科医の視点)

乙武さんのような障害のある方が結婚し、子供を作ろうとする時、肉体的障害よりも社会的ハンディーが課題になります。おそらく通常の生命保険や学資保険などには簡単には入れないでしょうから、推測ですが、彼は「奥さんや生まれてくる子が、社会的に人並みの人生が送ることができるめどが立たなければ……」と、普通の人以上に、親になる責任を考えたと思います。

 

子孫を残す欲求が低下した人が増え、また、子供はいらない、親になりたくない人も意思表示できる時代です。ならば一方、1人でも多く自分の種を残したい、たとえ相手を複数にしてでも…。そして、そのような強い精子を本能的に求める女性がいてもおかしくありません。社会の多様性を認めるとは、そういうことだと思います。

 

もし、乙武さんが家族に対する責任を放棄するような人生を送るのなら、人の道に反すると非難されるべきですが、もし、これからの人生をかけて、家族一族、縁のあった女性たちを守りきることができたら、拍手喝采です。

強制的不妊手術の実態と「障害者の性」

国連女性差別撤廃委員会が、加盟国の女性差別の現状や、差別解消の進捗状況に関する定期的なレポートの中で、20162月、日本政府への質問として「(過去に日本で行われていた)障害のある女性への強制的不妊手術の被害者に対する補償」について情報の提供を求めました。

<国連女性差別撤廃委員会>障害理由に不妊手術、政府に補償勧告

 

日本で、身体的障害や知的障害を理由に相当数の強制的不妊手術が行われていたことが報道され、驚かれた人も多いと思います。

日本政府は、当時としては正しい手続きの上で行われていたこと、1996年、優生保護法から母体保護法へと見直され、現在は、強制的な不妊手術は行われていないと回答しましたが、本当に正しい手続きがとられていたのか? 被害者への謝罪は必要ないのか? 疑わしい点もあります。

 

不妊手術

女性 卵管結紮術 卵管の一部を切除し、卵子精子が受精しないようにする。

男性 精管結紮術 精管の一部を切除し、精液に精子が含まれないようにする。

(今回は女性差別に関してですが、強制的不妊手術は男性にも行われていました)

 

◆ある実例

1980年代、ある作業所に勤務する20歳代後半の軽度知的障害の女性が、職場で縁があり理解のある男性と結婚することになり、その女性の母親が「娘に大変なことをしてしまった」と相談に来院。

娘は小学校低学年で軽度の知的障害(当時の精神薄弱)と診断され、小・中学校は養護クラス。母親によれば、子供の頃から女性的な魅力があり、10代半ばで妊娠・中絶を経験。将来を心配した母親が福祉関係者に相談したところ、優生保護法により、親の同意があれば、卵管結紮術が受けられると聞いて深く考えずに手術を受けさせた、という話でした。

現在なら、卵管が結紮されても体外受精で妊娠可能ですが、当時は、卵管を結紮するとほぼ妊娠不可能で、一部の病院で行われていた卵管再吻合手術も成功率は低く、経済的にその病院までは行けないとのことで、成功率は低い事は納得の上で、血管外科医の協力で血管吻合術の手技で卵管再吻合手術を行ったところ、うまく自然妊娠に至り、母親に感謝された。

(秘密の保持に留意して記載しています)

 

◆(旧)優性保護法とは、

1条(法律の目的)

この法律は、優性上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。

2条 (定義)の1

この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもって定めるものをいう。

 

生殖腺は卵巣、精巣のことなので、子宮は生殖腺ではないとの判断で、当時、学用患者(医療費が免除される)として、研修医の修練のために子宮摘出術を受けた人もいたようです。子供の将来を心配する障害者の親に対して、当時の担当者は「卵巣を残せば女性ホルモンは出るし、障害者は月経出血がない方が楽だろう」と述べたとのことです。

 

◆時代背景

おそらく1970年代までは、強制的不妊手術は、社会的に必要性のある合法的な手術として、あまり罪悪感などはなかったと思います。精神疾患に対するロボトミー手術が行われ、小説「白い巨塔」の産婦人科医、財前又一が活躍した時代ですから……、

当時は、身体的障害、知的障害のある人の妊娠は、経済的問題、社会的体面から家族も困るだろうと、形式的な審議だけで、本人の同意のない手術が行われていたと推測されます。

関係者の多くが「強制的不妊手術は問題だ」と認識したのは1980年代と思います。今でも、当時現役だった80歳以上の医師と話をしていると、優生思想に関する認識の違いを感じます。これは現在の出生前診断の混乱の一因にもなっています。

 

 

◆映画「さようならCP」と、障害者の性の問題

脳性まひ(CP)とは、妊娠中、分娩中に起こった低酸素症、感染症、未熟児などが原因で、運動機能、姿勢の障害による不自由が運命づけられ、根本的な治療はない、非遺伝性の疾患です。実は、五体満足に生まれた人との違いは紙一重で、知的レベルは高く、それゆえの辛さ、悔しさがあり、映画「さようならCP」で、その状況が見事に表現されています。

 

多くの人は、人生には何度かチャンスがあり、人生のやり直しもある程度可能という意識があります。しかし、脳性麻痺の人にとっての人生のやり直しは、障害のない子孫を残すこと以外にはなく、その欲求は誰も否定できません。   

 

ヒト生態学的には、五体満足で生まれ、生殖期の生活に満足感のある人は、子孫を残す本能が低下する傾向があります。五体不満足で生まれる、生殖期に生きることに必死、人生に不満足な人は、子孫を残したい本能が強い傾向があります。昔から経験的に「貧乏子沢山」とされますが、生物的な本能と考えられます。