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現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

「おひとりさま出産」を支える社会

マーガレットコミックスDIGITAL『おひとりさま出産』七尾ゆず(集英社クリエイティブ)が1225日にkindleでも発売され、「40歳目前、年収200万以下のバイト生活。金も男も要らぬ、わたしはとにかく子が欲しい!」というコピーに惹かれて購入しました。

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内容は作者の実体験「彼は頼りにならず、親にも見放され……という境遇の中、それでも子供が欲しかった漫画家」とのことですが、しかし!

彼は「金にルーズで、生活力ゼロ」と云いながらも、主人公のセリフは、

「顔は、まぁそこそこだし…、腹筋は自慢のシックスバック、一応、早稲田だけど…」

「お腹に赤ちゃんがいます!! 結婚したくないので1人で産みます(不倫とかじゃないよ)」とか、

なぁーんだ、男、いるじゃん! それも、それなりに雰囲気のある男。

織田作之助夫婦善哉』ほか、昔からよくある男・女の関係です。 

 

結局、マウンティング女子的なテイストで、ストーリーの意外性、悲壮感は乏しく、お笑いも中途半端ですが、それは作者が社会常識のある普通の人だからかもしれません。漫画作家としてのこれからの可能性に期待して、続編も必ず購入したいと思いますが、しかし、このようなリアルな体験の漫画化は、社会的には意義があります。

日本は多様性の受容に乏しく、社会的な免疫力が不足しています。いわゆる貧困女子が、あらゆる手段を尽くして、子供を育て上げるリアルストーリーを示すことで、社会的な障害、必要な支援が見えてきます。正解は一つではありませんが、ちょっとしたことに気がつかなかった、少し見栄を張ったなど、ほんのわずかなことがきっかけで、うまくいかなくなることがあります。まずは実情が公開され受け入れる、社会が多様性への耐性、免疫力をつけることが必要です。

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 実際、35歳を過ぎて未婚で出産に臨む女性は増えています。「アラフォーのおひとりさま出産」とは云え、リッチなシングルキャリアウーマン、事実婚生活保護受給者などさまざまで、ひとくくりにはできませんが、共通するのは「わたしの子供が欲しい」という本能的な欲求や、予想される困難に向き合う意志と不安が感じられることです。

 課題は「経済的問題」と「周囲の受容」、「生理的出産適齢期」。おひとりさま出産を無責任に推奨するわけではありませんが、現実問題、これから増えていくのは確実です。そこで、この本でも描かれ、ネット上でも話題になる「助産制度」について、アドバイスを一つ。

 助産制度:保健上必要があるにもかかわらず,経済的理由により入院助産を受けることができない妊産婦が助産施設に入所し出産できる制度(事前に申請が必要です)。

助産制度で出産というと、話題になるのが出産場所です。自治体指定病院での出産になり、確かに分娩場所は選べませんが、今は、昭和の小説や映画に出てくるような、医学的設備が不十分なうらぶれた施設での出産というイメージを持つのは大間違いです。

自治体のホームページで助産制度を調べれば、具体的な病院名が出てきますし、具体名がない自治体では公立病院が担当すると思います。ほとんどが地域の中核病院で、私たち産科医から見ても、医学的に困難な症例の際に、頼りになる紹介先施設です。助産制度で出産するからといって、産科医や助産師が手を抜くことはありません。

妊娠が分ったら、中途半端な電話相談、ネット情報などは頼りにせず「とにかく公的資源は利用しまくるぞ」といった気持で、できるだけ早く自治体窓口に相談に行くことです。ほとんどの方は「おひとりさま出産」について勘違いしていますが、決して「おひとり」ではありません。出産は母親と子供の共同作業です。子供には経済的困難の責任はありませんから、子供の権利を第一に考えてくれる窓口があるはずです。はっきり「誰か助けてください」と声を出しましょう。

これからの日本、選挙権を得るまでの医療保険、教育費については国が責任を持つくらいの政策がないと少子化は改善しません。出産、子育ての責任を個人に負わせるには、今の社会は複雑すぎますから。