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現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

赤ちゃんに大事な母と子の素肌接触

赤ちゃんが生まれてすぐにする大事なこと

赤ちゃんが生まれて最初にすることは産声を上げ、自分の力で呼吸を始めることですが、その次にする大事なことが「母と子の素肌接触」「初めての“いただきます”」です。 

◆ 母と子の素肌接触

赤ちゃんは無菌状態の羊水の中で育ちますが、生まれると同時に、外界の様々な細菌にさらされます。この時、無垢の皮膚を適切な細菌群(母親の常在菌)で素早くコーティングすることで、他の細菌の侵入を予防します。生まれてすぐの母と子の素肌接触は、赤ちゃんにとって非常に大切です。

野生動物の番組で、生まれたばかりの羊水まみれの動物の赤ちゃんを、母親が懸命に舐めているシーンを見たことがあるでしょうか? 羊水を拭き取っているように見えますが、あれも実は、母親の口の中の常在菌群で赤ちゃんをコーティングしているのです。

母親の皮膚や口の中の常在菌群は、母親の免疫システムにとっては、長年のつきあいで免疫的に許し合った旧知の仲と言えます。赤ちゃんは生まれる時に、母親から受動的に血液中の免疫システムを譲り受けていますから、母親の常在菌コーティングによって、免疫的に許し合った皮膚の常在菌群と血液中の免疫システムをセットで引き継ぎます。

感染症は病原体と免疫システムの戦いです。常在菌と免疫システムが戦うことなく赤ちゃんに移行するためには、常在菌コーティングは、必ず母親の常在菌群でなくてはならないのです。

この常在菌群は、数10100種類の細菌がお互いに共存してきた集団です。赤ちゃんの皮膚母親の常在菌群でコーティングされると、未知の細菌の侵入を最小限に防ぐことができます。やがて、赤ちゃんが自分自身の免疫を獲得することができるようになるまでは、重要な感染防御機構です。

◆ 生まれて初めての “いただきます”

生まれたばかりの赤ちゃんを素肌でお母さんのお腹に乗せると、懸命に足を突っ張って、這い上がろうとします。周りが余計なお世話をせずに見守ると、母親の乳首にたどり着きます。中には行き過ぎて、母親の顔の高さまで這い上がる子もいますが、誰に教わることもなく、自然に母親は胸の高さで抱こうとします。

さらにしばらくすると、赤ちゃんは母親の乳首を舐めます。中には本能的に乳首に吸着し、吸啜(きゅうてつ:sucking)する子もいますが、無理に乳首を吸着させる必要はありません。初めは舐めるだけで十分です。

赤ちゃんはお母さんの乳首、乳輪を舐めて、乳首周囲の常在菌群を口に入れます。これが生まれて初めての“いただきます”です。乳汁やミルクが胃腸に入って、胃酸や消化液が分泌される前に、母親の常在菌が腸内に届き、数時間の内に腸内細菌群の基礎を作ります。

かつて病院が用意するお産セットには清浄綿や消毒綿が入っており、授乳前に乳首を拭くように指導された時代がありますが、あれは間違いでした。健全な常在菌群を消毒してはいけません。ただし、私たちの手指、手の平、爪などは、健全ではない細菌が潜んでいる可能性が高いので、十分な手洗いが必要です。生まれたばかりの赤ちゃんは素手で抱えず、胸で素肌接触し、上から清潔な乾燥したタオルで覆って抱っこします。