現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

乙武洋匡さんの先天性障害と胎児超音波診断

最近話題の乙武さんには、自らの著書「五体不満足」にあるように、先天性四肢切断という障害があります。このような生まれつきの障害(先天異常)は、大きく2つに分類されます。

 

精子卵子が受精した段階で決定する、染色体や遺伝子の異常による先天異常

ダウン症などの染色体異常

・遺伝子の異常で起こる遺伝病

 

◆正常な受精卵が発育する過程で、外部からの要因により障害が起こる偶発的な先天異常

・先天性風疹症候群、先天梅毒などの感染症

サリドマイド、アルコールなどの薬物

・先天性絞扼輪症候群(羊膜索症候群)などの物理的外力

・その他(放射線など)

 

乙武さんの先天性四肢切断は、絞扼輪症候群に属しており、妊娠初期、何かの原因で身体の一部に癒着や引きつれを起こし、その部位の発育が制限されます。通常は羊水の潤滑作用により障害は起きませんが、健常者との違いは紙一重で、わずかな偶発的な変化が原因になります。

パンの生地をこねる時に打ち粉が足りないと張り付いて、きれいに成形できないような感じです。

 

このような異常は、妊娠初期の超音波検査で診断できるようになりました。

◆あるケース複数の実例を元に創作)

妊娠12週の超音波検査で「胎児の片腕の欠損」が疑われ、「超音波検査で判明した胎児異常は教えてほしい」という同意を得ていたので、本人と夫に「まだ確定できませんが、片方の腕が欠損している可能性があり、妊娠16週(妊娠5ヶ月)に再検査が必要です」と説明しました。妊娠の喜びが一転、ご夫婦は不安な日々を過ごされたようです。

16週に診断が確定し、「やはり、赤ちゃんの片腕(上腕)の根元から先が欠けています。もう片方の腕と両脚は正常です」、さらに詳しい説明として「可能性として、先天性絞扼輪症候群が考えられ…」と、この異常の場合、いつも乙武さんには申し訳ないと思いながら、彼の名前を例に挙げて「これは乙武さんと同じタイプの障害で、染色体異常などの可能性は低いのですが…」と話した段階で母親は号泣され、日を改めることにしました。

乙武さんと同じ知性を持って生まれるとは限らず、単純に「頑張れ」と言うわけにもいかず…、結局、その後の面会で妊娠の継続を断念されました。このような場合に同様の選択をされる方は多く、今後、乙武さんと同じ障害の人はいなくなる可能性もありますが、果たしてそれで良いのか難しい課題です。

 

乙武さんの最近の話題について(産科医の視点)

乙武さんのような障害のある方が結婚し、子供を作ろうとする時、肉体的障害よりも社会的ハンディーが課題になります。おそらく通常の生命保険や学資保険などには簡単には入れないでしょうから、推測ですが、彼は「奥さんや生まれてくる子が、社会的に人並みの人生が送ることができるめどが立たなければ……」と、普通の人以上に、親になる責任を考えたと思います。

 

子孫を残す欲求が低下した人が増え、また、子供はいらない、親になりたくない人も意思表示できる時代です。ならば一方、1人でも多く自分の種を残したい、たとえ相手を複数にしてでも…。そして、そのような強い精子を本能的に求める女性がいてもおかしくありません。社会の多様性を認めるとは、そういうことだと思います。

 

もし、乙武さんが家族に対する責任を放棄するような人生を送るのなら、人の道に反すると非難されるべきですが、もし、これからの人生をかけて、家族一族、縁のあった女性たちを守りきることができたら、拍手喝采です。