Yahoo!ニュースで「妊娠中の果物摂取が、子供の知能を向上させる」
と紹介され、賢い子供を産みたい母親らの関心を引いています。さっそく、外来で「あれは本当ですか?」とコメントを求める方も……。
元記事は、8月30日のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の配信記事です。
WSJといえば、世界最大の発行部数を誇る経済新聞(Wikipedia)ですが、
どうして経済誌がこの記事を配信したのか? 妊婦や生まれてくる子供のことを考えた記事なのか、少し調べてみました。
(2016-09-03時点、日本版WSJ、米国版WSJで閲覧可能)
記事によると「母親が果物を多く摂取すると、子供の知能指数が高くなる可能性がある」とのことですが、元となったカナダ・エドモントン・アルバータ大学の報告は、あくまで予備段階の研究のようです。
「母親が果物を適切に摂取するのは望ましい」ということに異論はありませんが、それで子供の知能指数が高くなるとはどういうことか? 論文の原本を調べてみました。
「妊娠中の果物摂取が子供の知能向上に関連する」EBioMedicine 8(2016) 331-340(英文)
報告は二つの研究からなっています。
1)カナダ、エドモントンで募集された、妊娠中期、後期の妊婦への質問調査と、その後、生まれた子供の1歳時の発達(ベイリー発達検査法)を比較した調査報告。
2)実験用に飼育されたのショウジョウバエに果汁を与え、記憶力と学習能力を向上させる実証実験。
◆妊婦への主な調査内容
・既婚か
・収入が6万ドル以上?
・中等教育後の学歴
・(子供は)白人か?
・自宅での喫煙?
・母親の年齢
・食物摂取調査票
・果実消費量(果汁を含む)
・授乳期間など
調査結果と子供の発達検査を比較してみると、特に、妊娠中の果実摂取量と、1歳時点の認知・適応機能の発達に関連があることが分かったので、その結果をふまえてハエを使った実証実験が行ったとのことです。
摂取果実量から換算されるリコピンとフルクトースの摂取量との関係も調べられています。
◆この論文で気になった点
・子供の知能発達は、食物中の果実成分だけに左右されているとは考えられず、論理展開に飛躍がある。(著者らも認識しており、原論文では控えめな表現です)
・加工果実飲料についての記載が多く、生鮮果実については詳細がわからない。(生鮮果実を入手できない人や、食のライフ・スタイルを考慮した現実的な判断かもしれません)
・果実の成分で、主にリコピンとフルクトースだけに注目した理由が不明瞭。
・ハエの実験で使われた果実汁は、ミニッツメイドのオレンジジュースと、ハインツのトマトジュースと記載されていますが、通常このような論文で商品名が表示されることは少ない。
◆この論文を理解する予備情報
・エドモントン:カナダ西部、アルバータ州の州都で、世界有数の農業地帯をひかえる農畜産物の大集散地。
・ミニッツメイド:果実飲料のブランド名 本社は米国で日本では日本コカ・コーラと明治が販売している。果汁は濃縮還元製品。
・ハインツ:アメリカのピッツバーグに本社があり、販売量世界第一のトマトケチャップで有名な食品メーカーで、海外ではトマトジュースも販売している。
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表向きは、知能指数の高い子供がほしい妊婦へ向けた栄養指導のように見えますが、実は、いわゆる経済誌向けの記事のようです。
「妊娠中、習慣的に果実を摂取することが、子供の知能向上に役立つ可能性がある」ことは否定できませんが・・・
◆論文の印象のまとめ
・妊娠中の食生活を意識することは、子供の発達に良い影響がある。
・毎日、定期的に果物などの食物を過不足なく摂取する習慣は、子供の発達に良い影響がある。これは時間栄養学的な効果が大きいと考えます。
・リコピンやフルクトースなどの特定成分を多く摂取するから優秀な子供になるとは、簡単には言えない。
・生鮮野菜、生鮮果物の摂取の不足が疑われる場合には果汁、野菜ジュースで補完可能かもしれない。
日本的には、毎日、生鮮果物を摂取できなければ伊藤園・カゴメの果汁野菜ジュース(砂糖・塩分無添加)を摂取することで補うことが可能かもしれない。
・果物、果汁の摂りすぎによるカロリー過剰、妊娠糖尿病の発症に注意が必要。