現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

食の考察 「葉酸」

葉酸は、乳酸菌の増殖を促す物質として、ほうれん草の葉から発見されたビタミンです。遺伝子DNAの複製やアミノ酸の合成を効率よく行うための補酵素として働き、胎児発生期やガンなど細胞増殖が盛んな組織で需要が増えます。

この葉酸を妊娠前~妊娠初期に摂取すると、無脳症や二分脊椎などの先天異常の発生が減少することが判り、1998年1月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、シリアルなどの穀物加工食品の全てに葉酸の添加を法律で義務づけましたが、全ての人に葉酸摂取を促すことが、公衆衛生的に正しいのか、実は判っていません。

妊娠中の葉酸摂取についても、全ての妊娠期間中、サプリメントで摂取することが望ましいとは言えません。

 

◆普通に日本食を食べておれば葉酸は十分摂取できる。

シリアルやスナック菓子、コーラなどで食事を済ますこともある国では、穀物加工食品に葉酸添加が必要かもしれませんが、日本では、平均的な日本食で、野菜、納豆・乳酸菌製品などの発酵食品から葉酸は十分摂取できると考えられてきました。

食の実態調査で、野菜嫌いやダイエットなどの影響により、近年、妊娠適齢期の女性の葉酸不足が指摘され、やむなく、サプリメントによる葉酸摂取も容認されてきましたが、本来は、食事から摂取するべきものです。

 

葉酸の過剰摂取の危険性

葉酸が不足している場合に、適量の葉酸摂取はがん予防になります。一方、葉酸を過剰摂取した場合には、むしろ、がん患者のがん細胞の増殖を促したり、家族性素因のある大腸がんや乳がんの発がんリスクを高める可能性があります。

世界がん研究基金によるガン予防の勧告「食物、栄養、身体活動とがん予防」の勧告8.食事のサプリメントでは、「サプリメントに頼らず、食事のみから栄養をとること。サプリメントはがんの予防に関しては勧められない」としています。

以前は、日本でもサプリメントは勧められないと記載されていましたが、最近の「がんを防ぐための新12か条(がん研究振興財団)」などでは、サプリメントに関する記載がなくなりました。これは日本らしい諸事情への配慮でしょう。

 

葉酸について

葉酸を多く含む食品は、レバー(肝臓)、ほうれん草などの野菜、発酵食品です。動物の肝臓は3分の2を失っても、元の大きさに再生する唯一の臓器ですし、発育期のほうれん草の葉を2、3枚ちぎっても、元の形に生えてきます。このような細胞の再生、増殖が盛んな組織に葉酸が多く存在していますが、盛んではない組織には、あまり存在しません。

この葉酸は、自然界の化学反応でもわずかにできます。地球上に生命(≒DNA)が誕生し、効率的な増殖のために利用するようになり、生命が自ら作るようになりました。全ての生物(微生物・植物・動物)に必要ですが、動物は、食物連鎖により食物から葉酸を摂取するのが効率的で、自身の体内では作られなくなりました。

自然界では、季節により葉酸の摂取は変動します。繁殖期に野生の草食動物が新芽や若葉を選んで食べたり、アフリカのメスライオンが獲物の肝臓を優先的に食べて、口の周りを血だらけにしている映像を見たことがあると思います。動物にとって“いただきます”は、健康な命をいただくということですが、必要以上に葉酸を摂取することはありません。

葉酸コエンザイムQ10などの補酵素は細胞の活性を高め、アンチエイジング効果があるとされますが、継続的な摂取は、”がん” や “前がん状態” の細胞の活性まで高めてしまう可能性があります。同じがんでも、若い人の方が進行が速い。

 

◆妊婦はどうしたらよい?

妊娠と判明する前から、赤ちゃんの重要な部分が作られており、葉酸は大切な役割を果たします。妊娠の可能性がある女性は、日常的に、健康な食物から葉酸を摂取することが大切です。

野菜嫌いなどで葉酸摂取が不十分な場合、妊娠前から妊娠12週頃まで、市販の葉酸サプリメントの利用も一つの方法ですが、最良の方法ではありません。

無脳症、脳瘤、二分脊椎などの出産経験のある方の場合、1日4mgの葉酸摂取が再発防止に有効であるとされていますが、これは、一般妊婦への推奨量の10倍量になります。医師と相談の上、再発予防として、妊娠前から妊娠12週までの期間、サプリメントではなく葉酸欠乏症治療用の葉酸錠を服用をします。継続して服用する量ではありません。