現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

無痛分娩の利益とリスク

アメリカ妊娠協会による無痛分娩に関する解説を翻訳しました。

一般の妊婦向けの文書ですが、内容は専門的で詳しく記載されています。アメリカでは、妊婦本人が自ら勉強した上で、無痛分娩を選択しているようです。日本では、無痛分娩の良い面の宣伝が多く、リスクについての説明は不十分です。
(以下は、筆者が個人的な目的で翻訳した文書です。必要な場合は原文をご確認ください)

 

分娩時の硬膜外麻酔(無痛分娩)の利益とリスク

硬膜外麻酔は陣痛の痛みを軽減する最も一般的な方法です。多くの妊婦が、痛みを軽減する他の方法よりも硬膜外麻酔をリクエストし、病院で出産する人の50%以上で硬膜外麻酔が使われています。
”分娩の日”への準備として、できるだけ陣痛緩和の選択肢について学び、分娩の際に適切に意思表示できるようにしておきましょう。
麻酔の違い、投与法、その利益とリスクを理解することは、陣痛・出産時の意思決定に役立ちます。

 

硬膜外麻酔とは?

硬膜外麻酔は、身体の特定部分の痛みをブロックする局所麻酔です。硬膜外麻酔の目的は、鎮痛、または痛みの緩和であり、全ての知覚を麻痺させる麻酔ではありません。
硬膜外麻酔は、下部脊髄からの神経知覚をブロックし、下半身の感覚を低下させます。
硬膜外麻酔で使われる薬剤は、ブピバカイン、クロロプロカイン、リドカインなどの局所麻酔薬です。局所麻酔薬の必要量を減らすために、しばしばフェンタニル、スフェンタニルなどのオピオイドや麻薬を添加して注入されます。
これにより必要最小限の疼痛緩和をおこないます。硬膜外麻酔の効果を持続させ、母親の血圧を安定させるために、薬剤にエピネフリンフェンタニルモルヒネ、クロニジンを添加することもあります。

 

硬膜外麻酔はどのように行われる?

有効陣痛が始まる前や硬膜外麻酔の処置の前には、静脈点滴が開始され、陣痛から分娩となるまでに1~2リットルの静脈輸液が行われます。硬膜外麻酔は麻酔専門医、産科医、または麻酔看護師が管理します。
あなたは側臥位か坐位で、背中を弓のように丸く維持するよう求められます。この姿勢はトラブルを予防し、硬膜外麻酔の効果を高めるために重要です。
感染予防のために、腰背部のウエスト周りを消毒液で拭かれ、背中の一部の領域を麻痺させるために局所麻酔が注射されます。そして、腰部脊髄の周囲の麻痺させる部位(硬膜外腔)に針が挿入されます。
その後、針を通して、カテーテルが硬膜外腔に通されます。そして針は慎重に抜去され、カテーテルは薬剤の定期的または連続的注入のために、適切な位置に留置されます。カテーテルは抜け出るのを防ぐために背中にテープで固定されます。

 

硬膜外麻酔の種類は?

現在、基本的に2種類の方法が行われています。麻酔薬の用量や組み合わせは、病院や麻酔医によってが異なります。この点について、あなたはその病院の処置担当者に、そこの実際について確かめましょう。


・通常の硬膜外麻酔

カテーテルが留置されたのち、麻薬と麻酔薬の配合剤が、硬膜外腔へ輸液ポンプまたは定期注入で投与されます。フェンタニルモルヒネなどの麻薬は、ブピバカイン、クロロプロカイン、リドカインのような高用量の麻酔薬の一部を置換するために添加されます。
これは麻酔の悪影響を軽減するのに役立ちます。あなたはベッドにいながら食事をすることについて、病院の方針を尋ねたいと思うでしょう。

 

・脊髄麻酔と硬膜外麻酔の併用(脊硬麻) または ”歩行可硬膜外麻酔”

麻薬、麻酔薬、またはその配合剤の初期量を、脊髄がある脊髄腔に投与(脊髄麻酔)すると同時に、硬膜外にカテーテルを留置する。これにより、ベッドでの移動がより自由となり、介助による体位変換もしやすくなります。最初の脊髄麻酔が不十分であれば、カテーテルを通した硬膜外麻酔をいつでもリクエストできます。
硬膜外麻酔が行われた後の、移動や飲食について病院の方針については確かめましょう。
これらの薬剤の使用により、筋力、身体バランス、身体反応は減弱します。脊硬麻は4~8時間の麻酔効果が期待できます。

 

硬膜外麻酔のメリットは?

  • 分娩が長引いても休息が取れます。
  • 分娩の苦痛を軽減させることにより、より肯定的な出産体験となる女性もいます。
  • 通常、硬膜外麻酔により、覚醒状態を保ち、出産に積極的になることができます。
  • 帝王切開となった場合、硬膜外麻酔により手術中は起きていることができ、術後は有効な鎮痛が得られます。
  • その他の陣痛緩和が、もはや助けにならない際に、硬膜外麻酔は疲労困憊、異常興奮、疲労を緩和させます。
  • 硬膜外麻酔は、出産経験に休息、リラックス、集中、積極的参加を促す力をもたらします。
  • 硬膜外麻酔による無痛分娩は、絶えず改善されており、その成果の多くは経験による熟練のおかげです。

 

硬膜外麻酔のリスクは?

  • 硬膜外麻酔は急な血圧低下を引き起こすかもしれません。そのため、胎児への十分な血流を守るために、母親の血圧は定期的にチェックされます。血圧が急激に低下した場合には、静脈輸液、薬剤、酸素などの投与が必要になります。
  • 脊髄液の漏出によるひどい頭痛を起こすことがあります。1%未満の人がこの副作用を経験します。症状が持続する場合には、”血液パッチ”と呼ばれる、硬膜外腔にあなたの血液を注入する手技により、頭痛を軽減できます。
  • 硬膜外麻酔が施行されると、ベッド上で左右に寝返りすること、胎児心拍数を持続的に監視することが要求されます。同じ姿勢を続けると分娩の進行が遅れたり、停止したりすることがあります。
  • 震え、耳鳴り、背部痛、刺入部の痛み、嘔気、排尿困難などの副作用の可能性があります。
  • 硬膜外麻酔により、分娩時の”息み”が困難となったり、薬剤投与や、鉗子分娩や帝王切開などの医療介入が必要になることがあります。そのような場合に、通常どのような介入が行われるのか、バースプランを作成する際に、医師と話し合っておきましょう。
  • 分娩後の数時間、下半身が麻痺するかもしれません。麻痺のために、歩行時には介助が必要になります。
  • まれな事例として、カテーテルが挿入された領域に永久的な神経損傷を起こすことがあります。
  • 研究としては少し不確かですが、多くの研究では、母乳哺育が困難となる赤ちゃんがいることを示唆しています。その他の研究では、赤ちゃんが呼吸抑制を起こしたり、分娩時の胎児の位置異常、胎児心拍数変動の増加により、鉗子分娩、吸引分娩、帝王切開、会陰切開の必要性が増加すると示されています。

 

硬膜外麻酔についてよくある質問

 

硬膜外麻酔の留置は痛い?

この答えは、あなたが誰に尋ねるかによります。ある女性は、硬膜外麻酔で背中の麻酔領域に少し不快感を感じたとか、カテーテルが留置される際に圧迫感があったと表現します。

 

硬膜外麻酔はいつ留置されますか?

通常、硬膜外麻酔は、子宮口が4~5㎝開大し、真の活動陣痛となった時に留置されます。

 

硬膜外麻酔は分娩にどのように作用しますか?

硬膜外麻酔は分娩を減速させ、子宮収縮を弱めることがあります。この場合に、分娩を促進するために薬剤オキシトシンが投与されるかもしれません。

 

硬膜外麻酔は赤ちゃんにどのような影響がありますか?

既述のように、新生児への硬膜外麻酔の影響に関した研究は、多少曖昧であり、さまざまな要因が新生児の健康に影響を及ぼしている可能性があります。これらの薬剤がどのくらい影響するのかについて、事前の決定は困難であり、投与量、分娩時間、個々の赤ちゃんの体質により異なります。

投与量、薬剤は多様で、研究の具体的情報は一般に入手できません。副作用の一つの可能性としては、母乳哺育の際に、赤ちゃんが、”吸啜(乳首への吸いつき)”に苦労することがあります。もう一つは、子宮内で胎動が鈍くなったり、分娩時の胎位(胎児の位置、向き)のトラブルが生じるかもしれません。

また、これらの薬剤は、新生児の呼吸抑制や、胎児の徐脈を引き起こすことが知られています。薬剤は赤ちゃんに障害は起こさないかもしれませんが、新生児に微妙な影響を与える可能性があります。

 

硬膜外麻酔を留置した後、どのように感じますか?

子宮の神経は、最初の薬剤投与から数分以内に麻酔が効き始めるはずです。おそらく10~20分で十分な麻酔効果を感じるでしょう。麻酔の量が足りなくなると、さらに追加量が、通常は1~2時間ごとに投与されます。

硬膜外麻酔のタイプや投与量によっては、ベッド上での臥床に制限され、起き上がったり、移動したりはできません。

下半身が麻痺して排尿が困難となるため、分娩が数時間以上になると、おそらく導尿処置が必要になります。分娩が終了すると、麻酔のカテーテルは除去され、麻酔の効果も通常1~2時間で消えます。

人によっては、麻酔薬の効果が切れると、産道周囲の不快な灼熱感を経験します。

 

息むことはできますか?

硬膜外麻酔のため、子宮収縮を感じられないことがあります。陣痛を感じない場合は、息むことが難しくなるかもしれません。このため、赤ちゃんは、産道を通るための追加の手助けが必要となることがあります。これには通常、鉗子が使用されます。

 

硬膜外麻酔はいつもうまくいきますか?

ほとんどの場合、硬膜外麻酔は分娩時の陣痛緩和に有効です。中には痛みを感じると不満な人もいれば、身体の片側だけ効いたと感じる人もいます。

 

硬膜外麻酔が禁忌などで施行できない場合は?

以下のいずれかに該当する場合には、硬膜外麻酔は陣痛緩和の選択肢ではないかもしれません。

  • 血液凝固抑制剤(ヘパリンなど)を使用している
  • 血小板数が少ない
  • 出血、ショック状態
  • 背中に感染症がある
  • 血液感染症がある
  • 子宮口が4cmまで開大していない
  • 硬膜外腔にカテーテルを留置できない
  • 分娩経過が早く、薬剤を投与する間がない

 

妊娠中や分娩中に、病院の担当者に確認するべき事項

  • 硬膜外麻酔に使われる薬剤の配合や投与量は?
  • 赤ちゃんへの薬の影響は?
  • 起きて歩くことはできますか?
  • 飲食物はどのようなものが摂取できますか?

              原文最終更新日 2017年3月24日