正常出産においては、お産をする本人の性格や希望をふまえて、妊娠中から準備をすることで、より安心で満足できる出産を迎えることができます。
WHO「正常出産のケア 実施ガイド」においても、妊娠のリスクを医学的に評価した上で、どこで? どのようなお産をしたいか? など、具体的な個別の相談が有用であるとしています。
実際には、本人のバースプランとして、次のような書式で記入してもらい、助産師・医師と話し合います。単なる質問表とその回答ではなく、その人のイメージをサポートする、問題があれば解決策を示しておくことが重要になります。
バースプランの実例(赤字は実際の答えから引用)
~20週までにお書きください~
●妊娠を知ったときどう思いましたか? 周りの反応はいかがでしたか?
うれしいびっくりした。
「おめでとう」と言ってくれた。
●今の、お腹の中の赤ちゃんにメッセージをお書きください。
ママ パパのところに来てくれて、ありがとう
元気に生まれてきてね
~36週までにお書きください~
●お産のイメージはどうですか? 経産婦の方は、前回のお産の思い出は?
痛い、しんどい、感動
●陣痛・お産の時、一緒にいて欲しい人はおられますか?
夫、実母、助産師さん
怒らずポジティブに声かけしてほしい
●陣痛の時、どう過ごしたいですか?(ラマーズ法、ソフロロジー法、自己流など)
ソフロロジー法を練習して、リラックスしてすごしたい
アロマや音楽つかいたい
●お産後、赤ちゃんについての希望はありますか?(母子同室など)
産声をビデオに撮りたい
夫と3人の写真を撮りたい
生まれてすぐだっこしたい
●もうすぐママになる自分へのメッセージ
もうすぐ会えるよ!!
頑張ろう!!
●赤ちゃんへ、パパとママからのメッセージ
一緒に頑張ろうね
楽しみに待っているよ
早く会いたいな
次の2つの質問について補足します。
┃陣痛・お産の時に一緒にいてほしい人はおられますか?
現在では、夫の立ち合い分娩も一般的ですが、誤解してはいけないのは、妊婦の思いはさまざまということです。
医師・助産師を対象としたある医学専門誌には、立ち会い分娩について、
「夫が分娩に立ち会うということは極めて自然なことであり、家族の絆を強めるという意味でむしろ積極的に勧められるべきである」
とありますが、実は、このような押しつけは正しくありません。
家族のあり方は多様です。夫が立ち合いを希望しても、妊婦本人は「夫は外で待っていてほしい」と希望することもよくあります。これは生理的な気持ちであり、夫婦の愛情の深さとは関係ありません。
また、夫の母親(義母)などが、遠慮もなくお産の立ち会いや、産後の面会を希望した場合に、妊婦本人が気まずい思いをしないように、本人の希望に配慮した演出をすることも必要になります。
欧米では、ドゥーラと呼ばれる女性が重視されています。
ドゥーラ(Doula)とは、妊婦の感情や身体のケア、社会的な支援を継続的に行う、訓練を受けた女性のことです。
多くの英和辞典では、Doulaを「助産師、産婆」と訳していますが、間違っています。ドゥーラは産科施設に所属して分娩を介助する助産師ではなく、フリーランスの立場で妊婦の分娩支援をする、産科施設からみれば第3者であり、妊婦にとってはリアルタイムに指導が受けられる契約アドバイザーです。マラソンの伴走コーチ、山登りの山岳ガイドのような存在ですね。
かつての産婆さんはその役割も果たしていましたが、現在の病院助産師はあまり役割を果たせていません。今の医療制度での実現は簡単ではありませんが、いずれ産科医が減少して、分娩の集約化が進み、お産のあり方が見直されるときに、日本版ドゥーラ助産師のような存在が必要になると思います。
┃陣痛の時どのように過ごされますか?(ラマーズ法、ソフロロジー法、自己流など)
意外に思われるかもしれませんが、私が勤務する施設で一番多い回答は、
「自己流で……」です。そして、自己流と書いたバースプランを見たときには、
「そうですね。自己流でいいんですよ。”大変だけど、なんとかなる”くらいに考えておきましょ~」と答えています。
実は、自己流と答えた人は、お産を受け入れる心の準備がある程度できている人です。もちろん不安な気持ちはあると思います。でも、たいていその人なりの上手なお産をされます。
”もしかしたら叫んじゃうかもしれない”、”その時は助産師さん、お願いね”、と思える環境を提供するのが、産科スタッフの重要な仕事の一つです。
以前は、それぞれの産科施設が、
「当院はラマーズ法(またはソフロロジー法)を採用しています。妊娠中に呼吸法クラスを受講してください」など、陣痛緩和を目的としたラマーズ法やソフロロジー法などの教室を開いて、妊娠中のトレーニングを勧めていました。
現在も、呼吸法を希望する方を対象に、呼吸法クラスで指導を行っており、妊娠中から練習することは無駄ではありませんが、実は、一律の呼吸法がうまくいくとは限りません。
分娩中、”呼吸”や”息み”がうまくできない妊婦に、助産師や医師がしばしば、
「妊娠中に、呼吸法、ちゃんと練習してきましたか?」
「ほら、もっと○○呼吸で!」
「鼻から大きく吸って!」
「お母さん!赤ちゃんの心音聞いて! 赤ちゃん苦しがってる。深呼吸、深呼吸!」
「お母さん! 落ち着いて! あなたが落ち着かなくてどうするの、お母さんになるんでしょ!」
などと”声かけ”してしまうことがありますが、このような”声かけ”は逆効果で、間違っています。
呼吸法は一律ではありません。誰に教わるでもなく上手な人もおれば、少しコツを理解するだけで、うまくなる人もいます。ラマーズ法、ソフロロジー法、そのほかの呼吸法などについては、別の機会に科学的な解説をしたいと思います。
┃バースプランで重要なこと
バースプランでは、お産の時に
・できること、
・できないこと、
・状況次第でできない場合もあること
などについて確認をしておきます。
出産当日のスタッフは、「聞いてなかった」ということのないように、妊婦それぞれのバースプランを理解の上、実行しなければなりません。