現役医療者の視点

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ドラマ「コウノドリ2017」 安全な無痛分娩・心配なこと

「コウノドリ2017」は、産科病院に勤務する私たちにも楽しみな番組です。とてもリアリティのある医療ドラマですが、実は心配なことも……、現役産科医からコメントです。

  第1話 「聴覚障害者の出産」 本当の苦労
  第3話 「無痛分娩」 安全な無痛分娩の条件
  TBS金曜ドラマ「コウノドリ」 心配なこと

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手話通訳による診察

 聴覚障害者の出産 本当の苦労
ドラマでは、志田未来、泉澤祐希が聴覚障害の夫婦を演じていましたが、ご夫婦共に聴覚障害の方の出産は意外と多く、何組か担当しました。生まれつき聴覚障害のある方は、多くの場合、小さい頃から同じ特別支援学校(聾学校)に通ってカップルになりやすく、健常者夫婦よりも強い絆を感じます。
聴覚障害の多くは遺伝病(染色体や遺伝子の異常)ではなく、本来は正常な方が、出生前や新生児・乳児期に、感染症や薬物などにより、偶発的な障害を負ってしまうことによります。障害は不自由ですが、さまざまな支援や新しい技術のおかげで、かつてに比べればはるかに、ご夫婦で自立した社会生活をされており、お産を担当すると、2人の人生観や人生設計などが伝わってきて、考えさせられることがよくあります。

聴覚障害の妊婦の場合、妊娠中の急な症状、陣痛発来や破水などの連絡で苦労します。以前はFAXを利用していましたが、現在は、聴覚障害者の間でもLINEが普及しており、病院との連絡はもっぱらLINEです。病院の詰所には専用のスマホがセットされ「陣痛が何分おき」「破水しました」「病院まで何分」など、次々とメッセージが入ってきます。 
ドラマの中で、助産師の小松さん(吉田羊)が患者に個人的にLINEのIDを渡している現場が見つかり、今橋先生(大森南朋)に「それはルール違反」として叱れられますが、このセリフは作為的で不自然です。

出生後に新生児聴覚検査が行われますが、この検査で異常がなければ問題が解決するわけではありません。実は、聴覚障害者の場合、本当の苦労は生まれてから始まります。子供の泣き声が聞こえない育児には大変な苦労を伴いますし、両親が正しい語りかけができないので、子供の言語発育に十分な配慮が必要になります。

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聴力障害者夫婦の育児

 

 安全な無痛分娩の条件
第3話では、産科医の視点から納得できる無痛分娩の医療体制が描かれています。
LDR室には助産師の小松さん(吉田羊)、担当医のサクラ(綾野剛)の他に、待機医の下屋(松岡茉優)、麻酔医(赤澤ムック?)が立ち会い、娩出力が弱いと判断したサクラはさりげなく鉗子を使って出産させます。
「無痛分娩の希望者は計画分娩」としている分娩施設がありますが、それは24時間体制で麻酔管理ができないということで、まれに起こる緊急事態には対応できません。
また、無痛分娩で妊婦が息めない場合、日本で主流の吸引分娩では娩出力が不十分なので、鉗子分娩が必要になります。無痛分娩が多いアメリカ、フランスの産科医には鉗子が必須技術です。

安全に配慮した無痛分娩の2条件
 自然陣痛に合わせた無痛分娩が可能で、麻酔が24時間対応。
 無痛分娩で息むことができない場合には鉗子分娩ができる。
この2点を明示していることが重要です。


 金曜ドラマ「コウノドリ」 心配なこと
ドラマ好きとしては、「コウノドリ」が「ドクターX」と並ぶ医療ドラマとしてシリーズ化されることを期待したいところですが、前作「コウノドリ2015」に比べ、何かおかしい?と感じている人も多いと思います。
ドラマの味付け(シナリオ技術)で感動的なドラマに見せていますが、とってつけたような伏線や人物の心情変化など、ドラマ好きを落胆させる安易な展開です。
登場人物は良い人ばかりで、せっかくの綾野剛、大森南朋も医療セリフを言わされていて、役者の見せ場がありません。
患者も、医療者側から見て都合の良い立派な患者ばかりです。切迫早産で入院中に子宮内胎児死亡とか、切迫早産で入院中に母体合併症で搬送されて母体死亡など、臨床的にあり得る経過ですが、本来なら簡単に終わる話ではありません。パン屋の若夫婦(篠原ゆき子・深水元基)の演技は素晴らしかったと思います。しかし、現実であれば、もっと複雑な展開になるはずです。

この第5話のサブタイトルは「長期入院 ママがあなたにできること」ですが、切迫早産で長期入院中に子宮内胎児死亡という経過で、「ママがあなたにできること」の答えは示されていません。ドラマでは医療者側からの描写として話は済んだように見えますが、ママとパパの本当の心の苦しみや後悔はこれから始まります。
この回の後の外来では、多くの妊婦から「私の赤ちゃんは大丈夫? 胎動があるから大丈夫ですよね!」とか、「あれから心配で寝られない」「私はどうしたらいいの?」、中には付き添いのご主人が「妊娠中の妻には心配にさせるだけだから見せていない」とか、さまざまな立場からの感想を聞かされました。

実は、前作「コウノドリ2015」のあと、

「コウノドリ」×「日本産科婦人科学会」 コラボ・プロジェクト

が始まり、おそらく企画や監修の影響でしょう、今シリーズは医療者・学会に都合の良い患者啓蒙・若手医師リクルートドラマになってしまいました。これを視聴者がどう思うか? 心配です。
ドラマ好きとしては、かつての米国ドラマ「ER」、TBSドラマ「ブラックジャックによろしく」のような本当のリアリティを追求して欲しいところです。