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双子の不思議 背が高い女性は双子を妊娠しやすい?

女優の杏さんが双子の妊娠を発表されました。所属事務所のFaxによると、

「……、双子だということも分かり、この場合安定期と特に言える時期がございません。しばらくの間、静かに見守って頂ければ幸いです」とのことです。

「妊娠はおめでた」とはいえ、双子の妊娠では、普通の妊娠とは違う苦労もたくさんあります。今回、双子についてのミニ解説、最近の話題について紹介します。

 

一卵性双胎: 1個の受精卵が、卵管を通過して子宮内へ着床する頃(受精後10日間)までに、2個に分割して発育するもの。遺伝子的に同質で、性別は同性、血液型、組織適合性などは同じ(世界で数例の例外あり)。受精卵が分割する時期によって妊娠中の注意が異なる。

 

二卵性双胎: 同時期に2個の卵子排卵され、それぞれが精子と受精して2個の受精卵ができ、子宮内に着床し発育したもの。遺伝子的に同質ではなく、性別は同性、異性のいずれの可能性もあり、血液型、組織適合性も一致するとは限らない。不妊治療で排卵誘発剤を使って増える双子は二卵性です。

 

一卵性双胎と二卵性双胎の頻度

一卵性双胎の頻度は、人種や遺伝的要因に左右されずほぼ一定で、0.30.5%(分娩1000件に35組)。

二卵性双胎の頻度は、人種や遺伝的要因、不妊治療の有無で異なり、自然妊娠では黒人で高く、次いで白人、黄色人種の順となる。ナイジェリアで約5%(分娩1000件に50組)、米国黒人1%、米国白人0.7%と報告されており、世界的には一卵性より二卵性が多いが、日本、台湾、韓国では0.20.3%で一卵性の方が二卵性よりも多い。ただし、現在は不妊治療により二卵性が増えている。

 

多胎妊娠の頻度

かつて、日本における多胎の頻度は、大ざっぱに双子は1/100(分娩100件に1組)、三つ子は1/10,000、四つ子は1/1,000,000、五つ子は1/100,000,000とされてきました。これは、一人追加して妊娠する確率が1/100で、確率のかけ算ということですが、最近は不妊治療の影響で当てはまらなくなりました。

 

母親の要因

母親年齢が高いと多胎となりやすく、3539歳で頻度が高いとされています。不妊治療を受ける率が高いことも一因ですが、初経後の累積排卵回数も影響し、同様に、初産婦よりも経産婦の方が多胎の頻度が高い。

身長が高い女性、体重の多い女性は、多胎の頻度が高いとされており、栄養状態が関係するといわれています。双子が多い家系も存在し遺伝的な素因も関係します。これらは、卵巣を刺激するホルモンが体質的に多く分泌されているのではないかと考えられています。

ヒト生態学的には、四季に恵まれ農耕定住して繰り返し出産できる民族は、1回の出産リスクを減らして、出産回数で子孫を増やそうとし、狩猟移動する民族は、出産回数を減らして出産のリスクが増える可能性があっても多排卵で子孫を増やそうとする。その結果と考えられます。

 

2010年以降、双子は減っている?

1980年代以降、不妊治療のために多胎妊娠は増え続け、母親のリスク、未熟児出産のリスクから、安易な不妊治療に警鐘が鳴らされてきました。確かに以前は、妊娠率を上げるために受精卵を多めに子宮内に戻しており、中には「とにかく妊娠率を上げて評判を良くして(稼ごう!)、妊娠したら産科施設に送って後は知らん……」といった不埒なクリニックも存在しました。

最近、優秀な不妊治療施設では、受精卵の評価や凍結卵の技術が進歩して、不妊治療による双子の割合は減少してきました。これからは、産科施設と良い連携が取れない不妊クリニックは淘汰される時代になるでしょう。

 

双子の母親の気持ちは複雑

1980年代までは、一人生まれた後に「もう一人赤ちゃんがいる」と、お産の時に初めて、双子が判明することもありました。最近は、超音波検査のおかげで、妊娠10週までに双子と診断できますが、妊娠初期に双子が分ると、妊娠の喜びよりも、本人や家族が不安を感じたり、経済的な心配から、中には十分に考慮せずに中絶を選択する事態となることもあります。実は、「双胎妊娠をどのように本人に伝えるのか」は、産科医にとって経験が必要な難しい仕事なのです。

 

「多胎妊娠は単胎妊娠と何が違うか」2004京都大学 横山美江さんの調査では、

妊娠がわかった時、嬉しくなかったと回答した人の割合は、単胎児の母親で1.6%、多胎児の母親で20%近くあり、非常に不安、あるいは不安と回答した人の割合は単胎児の母親で24.9%、双子の母親で57%と、三つ子で66.7%と報告されています。

 

もし、妊娠中の杏さんを街で見かけたとしても「妊娠おめでとう」と声をかけるのではなく、黙って静かに見守ってあげることが一番大事だと思います。