WHOが1996年に示した「正常出産のケア」実施ガイドは、多くのエビデンスから十分に検討された内容で、基本的には、20年経った現在も適応していると思います。WHOのサイトからPDF文書でダウンロードできますが、翻訳してみました。
再生医療や新薬、不妊治療に関する報道などから、医学の進歩は著しいと思われるかもしれませんが、医学の本質はそれほど変わりません。特に、正常出産のケアは大きく変化するものではありません。
(これは、筆者が個人的な目的で翻訳した文書です。必要な方は原文をご確認ください。文中の小文字記載は、訳者注です。なお、今回は原文PDF page34-37の翻訳です)
┃正常出産のケア:実施ガイド
正常分娩において日常的に行われているケアを、有用か? 効果があるか? 有害ではないか? の点から次の4つのカテゴリーに分類しています。
(原文では、それぞれの理由が示されていますが、今後、筆者の解説とともに紹介していきます)
- カテゴリーA:明らかな証拠をもって有用であり、奨励されるべきこと
- カテゴリーB:明らかに有害、または無効であり、排除すべき慣行
- カテゴリーC:裏付けとなる証拠が不十分で、明確な推奨はできず、さらなる研究で明らかにされるまでは、慎重に行うべきこと
- カテゴリーD:しばしば不適切に行われていること
┃カテゴリーA:明らかな証拠をもって有用であり、奨励されるべきこと
- どこで、誰と、出産を迎えるか? についてのプランを、妊娠中に本人と一緒に決めておき、それを夫やパートナー、もし適切なら家族にも伝えておくこと
- 妊娠のリスク判定は、妊婦健診のたびに再評価し、分娩介助者は入院時から分娩終了まで、終始、その評価を繰り返すこと
- 陣痛期から、分娩時、そして出産の全てが終了するまで、妊婦の心身の状態を観察すること
- 陣痛期、分娩時に飲水を勧めること
- 出産場所については、十分な情報を提供した上で、妊婦の選択を尊重すること
- 出産が可能で安全であり、妊婦が安心と信頼を感じる場所であれば、周産期センターではない周辺施設(産院などの一次施設)での分娩ケアを提供すること
- 出産場所において、妊婦のプライバシーを尊重すること
- 陣痛・出産に際して、妊婦に寄り添ったサポートを提供すること
- 陣痛・出産に立ち会う人の選択は、妊婦の意思を尊重すること
- 妊婦が知りたい情報や説明を、希望する全てを提供すること
- マッサージやリラクゼーションなどの、非侵襲的、非薬物による陣痛緩和を行うこと
- 間欠的な心拍聴取により、胎児の状態をモニターすること
- 使い捨ての器具は一回のみ使用し、再生可能な器具は適切に汚染除去すること
- 内診、赤ちゃんの娩出、胎盤を扱うなどの際には、手袋を使用すること
- 陣痛期を通して、妊婦の姿勢や動きは自由にさせること
- 陣痛発作時には、仰臥位(あおむけ)以外の姿勢をすすめること
- 分娩経過表などを用いて、分娩の進行を注意深く観察すること
- 産後出血のリスクがあったり、わずかな出血でも危険性がある妊婦において、分娩第3期(赤ちゃんが生まれて胎盤娩出まで)に、予防的にオキシトシンを投与すること
- 臍帯の切断は、無菌的に行うこと
- 赤ちゃんの低体温を防ぐこと
- 母と子が早期に肌と肌で接触し、WHOの母乳育児ガイドラインに従い、産後1時間以内に哺乳開始できるようにサポートすること
- 娩出した胎盤と卵膜の検査を習慣的に行うこと
┃カテゴリーB:明らかに有害、または無効であり、排除すべき慣行
- 慣例的な、浣腸
- 慣例的な、外陰部の剃毛
- 慣例的な、分娩時の静脈点滴
- 慣例的な、静脈カテーテルの予防的留置
- 慣例的な、分娩時の仰臥位(あおむけ)
- 直腸診(肛門から指を入れた診察)
- エックス線による骨盤計測
- 産まれる前のどの時期であっても、薬の効果をコントロールできない手段で分娩促進薬を投与すること
- 分娩中に、足台の有無にかかわらず、慣例的に砕石位をとらせること
- 分娩第2期(子宮口が全開大から赤ちゃん娩出まで)に、周囲の指示で、呼吸を止めて息ませるバルサルバ法を続けさせること
- 分娩第2期に、会陰部をマッサージやストレッチすること
- 分娩第3期(赤ちゃん娩出から胎盤娩出まで)に、出血の予防やコントロールのために、エルゴメトリンの錠剤を内服させること
- 慣例的に、分娩第3期にエルゴメトリンを注射すること
- 慣例的に、分娩後に子宮内を洗浄すること
- 慣例的に、分娩後に子宮内を手探りで調べること
┃カテゴリーC:裏付けとなる証拠が不十分で、明確な推奨はできず、さらなる研究で明らかにされるまでは、慎重に行うべきこと
- 分娩時の薬物に頼らない陣痛緩和とされる、ハーブ、水中出産、神経刺激
- 慣例的な、分娩第1期(陣痛開始から子宮口全開まで)の人工破膜
- 出産時の子宮底圧迫
- 会陰保護に関する手技や、娩出時の児頭への操作
- 娩出時、胎児への積極的な操作
- 慣例的に、分娩第3期にオキシトシンを投与や臍帯牽引などをすること(胎盤娩出のために)
- 臍帯の早期結紮
- 分娩第3期に、子宮収縮を促すために乳頭刺激すること
┃カテゴリーD:しばしば不適切に行われていること
- 分娩中の食事と飲水の制限
- 全身麻酔薬による陣痛管理
- 硬膜外麻酔による陣痛管理
- 分娩監視装置
- 出産の立ち合いの際に、マスクと滅菌ガウンを着けること
- 繰り返し、頻回の内診が、特に複数の介助者により行われること
- オキシトシンによる分娩促進
- 慣例的に、分娩第2期の始まりに合わせて、分娩中の妊婦を部屋移動させること
- 膀胱カテーテルによる導尿
- 子宮口が全開、またはそれに近いと診断される時に、本人自身が息みたいと感じる前に、息ませること
- 母児の状態が良く、分娩進行がある場合に、例えば1時間のような、分娩第2期の規定された時間に固執すること
- 手術的分娩(帝王切開、鉗子分娩、吸引分娩)
- 遠慮のない慣例的な会陰切開
- 分娩後に子宮内を手探りで調べること