現役医療者の視点

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オーバーシュートは誤用英語(新型コロナウイルス感染)

現在、日本では、「新型コロナウイルス感染の爆発的増加」のことを、オーバーシュート(overshoot)と表現していますが、これは誤用英語です。(一種の和製英語)

 

本来は、アウトブレイク(outbreak)という表現が正しい。

意図的にパニックにつながるようなアウトブレイクという表現を避けた、という言い訳も、あるかもしれませんが、今回の現象を表すのに、オーバーシュートは間違いです。

 一部の公衆衛生学者が、誤用を広めたとしか考えられません。

 

Overshootの本義は「狙ったところを外す」

Overshoot 「リーダース英和より」

1.(的を)越す。外す。

2.(停止線、滑走路などを)飛び越す。行き過ぎる。

3.(予定額、割当てなどを)超える。超過する。

 

工学用語として、電流などの複雑な変動現象を、経時的なグラフにした時、何かの原因で変動したものが、定常状態(ターゲット)に戻ろうとする時に、元のレベルを超えて、戻りすぎることをオーバーシュートといいます。狙ったところに制御することが難しいというニュアンスがあります。

制御のためのフィードバックシステムにおいても、フィードバックがかかりすぎるとオーバーシュートします。

 

その工学用語から転じて、金融工学・経済用語としても使われるようになり、株価や為替の変動において、まず何かの変動が起きて、そこから元に戻ろうとするときにもとのレベル(ターゲット)を超えて、戻りすぎることを意味しています。

一般に、オーバーシュートを起こすのは、市場が不安定な時に起こり、人為的に制御コントロールすることが難しいとされています。

 

私は臨床医なので、数理の専門家ではありませんが、日々、複雑系変動をする現象を対象にして仕事をしており、オーバーシュートは心拍数変動の異常サインとして、しばしば経験します。そのメカニズムは大体、解明されていますが、予測法、対処法は一律・簡単ではありません。

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経時的な胎児心拍数変動におけるオーバーシュート

今回、オーバーシュートが誤用されるようになったのは、推測になりますが、感染患者数が指数関数的、爆発的に増加して、制御できない状態になることを、一部の学者がオーバーシュートと、間違って表現したのだと思います。グラフの上で、スパイク状の増加が見た目にオーバーシュートに見えたとしても、それは本義とは異なります。

 

現場の感染症治療の専門家や、肺炎治療の医師が、一部の専門家の発言に異議を唱えることができなかったのではないでしょうか? 日頃交流がない、さまざまな分野の専門家が集まった際におこる、日本の縦割り構造の問題点です。

 

将来、今回の新型コロナウイルス感染に対する、日本の対応が世界から評価されたとしても、オーバーシュートという表現がアウトブレイクと同じ意味で使われるようになる可能性は少ないでしょう。(言葉は生き物なので分かりませんが……)

 

akachann99.hatenablog.com