現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

妊娠中、ちゃんとしたローストビーフは食べられる

妊娠中のローストビーフ

NHKドラマ「デイジー・ラック」出演中の佐々木希さんのインスタグラムに、ドラマの幼なじみ役4人でローストビーフを食べた時の様子がアップされていました。

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この写真を見て、SNSのコメントや医療現場を知らない科学ジャーナリストの記事では、「妊婦はローストビーフを食べてはいけない」と、妊婦を不安な気持ちにさせています。産科外来でも、心配になった妊婦からの質問が増えました。妊娠・授乳中に「食の安全」を考えることは大事ですが、どのように伝えるか、十分な配慮が必要です。

妊娠中に注意を要する感染症はたくさんあり、1つ1つの疾患を取り上げて危険性を問えば、それらの怖い病気の話は加算され、妊婦の食生活、社会生活は成り立たなくなります。トキソプラスマ症、サイトメガロ感染症などは、確かに母子感染を起こす場合はありますが、頻度が高いわけではありません。そして、残念ながら、確実に予防する方法や、確実に治療する方法はありません。

妊婦が知っておくべき生活の注意を理解した上で、必要以上に不安にならないことも重要です。

かつて、トキソプラスマ、サイトメガロなどの感染症は、妊娠年齢までに感染を済ませ、抗体が既にできている人が多く、私が医学生だった40年前は、トキソプラスマ抗体の保有者(既感染者)は80%以上とされていましたが、最近では10%以下になってしまいました。約90%の抗体陰性(未感染)者が、妊娠中に初感染を起こすことが問題になります。(自分が未感染かどうかは調べることができます)

確かに、私が少年だった頃は、井戸水も飲んでいたし、野良犬、野良猫がうろくつような砂場や池でどろんこ遊びをしていたものです。

 

妊娠初期トキソプラスマ抗体陰性妊婦の方への注意事項

  • 野菜や果物はよく洗って食べる
  • 食肉は十分に加熱して食べる
  • ガーデニングや土や砂に触れるときは手袋をする
  • 猫との接触に注意する
  • 猫の糞尿処理は可能なら避ける

       日本産婦人科学会ガイドラインから引用

 

私がこれまでに経験した妊婦トキソプラスマ症の多くは、海外生活で、現地の家庭料理として不十分に調理されたものを食べていたと思われる方々です。現地の人は、小さい頃から、血のしたたるレア肉を食べているのですが、そのような経験のない人がまねをしてはいけません。

最近、ネット上には簡単に作れるローストビーフ」などの情報が数多くアップされていますが、それらのレシピを元に自己流で作る時には火の通りに気を付けましょう。特に、「簡単にできる」「自家製」「低温調理」といった内容には注意が必要です。

 

一流レストランの調理場、調理人には、感染を防ぐ知恵があります。加熱する食材と、加熱しない食材を扱う人の動線、調理テーブル、調理器具が混在しない配置や、食材に対する十分な知識など。ちゃんと修行したシェフが作るローストビーフは、ほぼ安心と言えます。

一般家庭で、食材別に包丁、まな板を使い分け、肉類、魚介類と、生野菜、果物などを別々に調理するのは困難です。自家製の保存加工肉、自家製ソーセージ、自家製チーズ、自家製の発酵食品などは注意が必要です。海外旅行のお土産として、本来、国内への持ち込みができないような食品も要注意です。違法というだけではなく、危険です。

 

国内大手の食品メーカーが販売する生ハムや生チーズは、安心して食べてよいと思います。デパ地下などで扱われている、商品の流通ルートが十分に考慮された食材も、危険性は少ないでしょう。ただ、かつての食品偽装事件のような事でも起これば、保証の限りではありませんが……。

 

ペットの猫は、その人が以前から飼っていた室内猫なら、ほとんど問題ありません。生肉をえさとして与えない。外で飼わない。妊娠中に新しくペットを飼わない。などの注意が必要です。

 

<産婦人科医の視点 追記>

このような母子感染症は、学会で周期的に研究熱が高まります。現在は、私が医師になってから3回目のブームですが、なかなか根本的な解決には至りません。