現役医療者の視点

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新型コロナ禍の妊娠・育児 頑張るお母さんたち

コロナ禍の中、産後うつが増えている! という報道が続き、中には「産後の4人に1人が産後うつ」という記事までありますが、実態は違う印象があります。コロナ禍の中でも、ほとんどのお母さんは意外と元気で、逆境に負けていません。

(コロナ禍で、産後うつが増えているという報道については、最後に記載しています)

 

産後1ヶ月の健診では、産後うつ病の質問票によるリスク判定を行い、問題点がある場合には、保健師支援や精神保健福祉相談と連携をとりますが、特にコロナの影響で増えたという印象はありません。

 健診の最後に、妊娠・育児を振り返りながら、

「新型コロナでも頑張りましたね。大変でしたか?」

と声をかけてみると、

「分娩場所が急に変更になって、どうなるかと思ったけど、むしろ気合いが入った」

「里帰りも、夫立会いもできなかったけど、何とかなるものですね」

「コロナの影響で宅配、デリバリーが便利で、夫に気兼ねなく頼むことができた」

「妊娠中、仕事は在宅テレワークが主になり、通勤がなくて助かった」

「夫がテレワークで自宅にいる時間が多く、家事や買い物を助けてくれた」

「期待してなかったけど、コロナのせいで夫の産休が取れて、助かった」

「コロナ前は完全母乳と思ってたけど、こだわらないで混合でいいやと思ったら、いつの間にか、ほぼ母乳オンリーになってた」

「コロナで孤立ってニュースで聞いてて、私だけじゃなくて、みんな孤独だと思ったら、私には、この子がいるしと、むしろやる気が出た」

 

コロナ前と同様、産後うつリスクを示す方もおられますが、多くのお母さん方が、新型コロナ禍の中を頑張ることができている要因を紹介します。

 

新型コロナ禍の妊娠・育児  頑張れている要因

働き方改革が一気に進んだ

オフィスワークだった人は、新型コロナで在宅ワークやネット会議が増え、通勤の苦労、残業、予定外労働が減り、計画的な生活ができるようになり、妊婦にとって恩恵となっています。

マタニティーハラスメントの減少

働き方が変化し、以前に比べ、相対的にマタニティハラスメントが減少しています。これまでなら会社や上司に相談しても通らなかった希望が、受け入れてもらえるようになってきています。

厚労省の「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置」による、事業主を支援する助成制度の効果があるようです。

 事業主宛、妊娠中の指導事項のうち、特記事項として

 新型コロナウイルス感染症の感染のおそれの低い作業への転換、

 または出勤の制限(在宅勤務・休業)の措置を講じること

かつてなら、このような指導事項は通用しない職場でも、コロナ禍の意識変化、助成制度のおかげで、理解してもらえるようになりつつあります。

  

宅配・デリバリー食の普及

スーパーや生協の宅配、アマゾン・楽天、デリバリー食などが利用しやすくなったことに加え、コロナ禍の中、必ずしも贅沢とは見なされないようになり、以前ならあったかもしれない、夫や姑からの「手抜きじゃない?」圧力もなくなった。

(かつて「毎日、店屋物」、「毎日、出前」は、家事の手抜きを非難する表現でした)

 

妊娠・育児へ、理想プランを求めなくなった

コロナ前のマタニティープランには、「妊娠中にあれをしたい」「出産・育児は○○で」などの理想イメージが記入されていましたが、最近は、妊娠したことの喜び、赤ちゃんへの素直な思いなど、シンプルな記載が増えました。出産・育児に求めるハードルを不必要に高くせず、はじめから、ある程度割り切っているのではないでしょうか。

マタニティービクス・ヨガなどのクラスは今も中止されていますが、「Youtubeを見ながら毎日ヨガしてます」とか、むしろ運動不足を意識するようになり、できる範囲でインドアスポーツや散歩など、適度な運動を工夫しているようです。

 

相対的に、孤独感や疎外感が軽減

誰でも気分が落ち込み、憂うつになることはありますが、特に、周囲の人が楽しそうだったり、うまくやっている時に、「自分だけなぜ」と思う感情が、孤立・疎外感を増悪させます。

コロナ禍の中、みんなが同じ状況だということが明らかになり「自分だけじゃない」と実感でき、相対的に、孤独感や疎外感は軽減している可能性があります。

(この場合、周囲が「あなただけじゃないのよ」と声をかけるのは、逆効果です)

夫の浮気の心配が減った

産後うつの誘因の1つに、夫への不満があります。夫が浮気を始めるきっかけの1つは、妻の出産・育児、里帰り期間ですが、緊急事態宣言下で、夫の飲み会や接待が減り、帰宅も早くなって、必要以上に猜疑心を持たなくて良くなっています。

(実際の浮気が減ったかどうかは不明です)

新型コロナの第一波の頃、DVの顕在化が報道されましたが、それは潜在的なDVが表面化しただけで、年間を通して増えたのかについては、コロナ禍の終了後に検討が必要です。

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新型コロナが流行する以前から、日本産婦人科医会は、世界保健機関(WHO)の見解などをもとに、母親の10人に1人が産後うつを発症する恐れがあり、対策が必要としてきました。

これまで通り、産後うつの予防支援や、経済的な援助は重要ですが、新型コロナと絡めた社会問題として、必要以上に不安をあおるのは問題です。

せっかく妊娠したのに、周囲の人間、友人から

「妊娠? 何考えてるの、世の中、コロナで大変なのに、今じゃないでしょ!」

「妊娠? 産後うつが増えてるっていうのに、大丈夫なの?」

とか、心ない声をかけられることもあるようです。

 

 

妊娠中、授乳中の新型コロナワクチンは?

ようやく日本でも、新型コロナワクチン接種が始まります。

国内では医療関係者への先行接種からですが、妊娠中、授乳中の人はどうしたらよいか、問い合わせが増えています。

 (2021年2月10日時点の情報提供です)

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日本国内では、妊娠中の感染症例数も少なく、一定の方針を出せる状況ではありませんが、アメリカ、イギリスでは、妊娠中の医療従事者・エッセンシャルワーカーには、自己判断の上、接種希望者には接種を勧めるとしています。

数多くの症例報告があるアメリカ、イギリスの方針から紹介します。(アメリカ疾病予防センター、イギリスRCOGのサイトから引用)

 

現時点で分かっていることは、
  • 妊娠中、授乳中の新型コロナワクチンの安全性に関するデータは十分ではないものの、これまでの接種経験では、他のワクチンに比べてリスクが高いというデータはない。
  • 新型コロナによる妊婦の健康被害の可能性は低いはとはいえ、新型コロナにかかると、同年代の女性に比べて、集中治療や人工呼吸器が必要となるリスクは高い。合併症妊婦では死亡例の報告もあるので、いまのところ、妊婦は、高齢者、糖尿病、肥満の人と同様のハイリスクグループに含まれており、ワクチンのメリットがある。 

    2009年の新型インフルエンザ(現在の季節性インフルエンザ)に比べると、新型コロナのリスクは大幅に低いと報告されています。

     

  • 今回のワクチンは、これまで私たちが馴染んできたワクチンとは製法が異なり、理論的には、妊娠中、授乳中の接種による副作用は少ないことが期待されています。ただし、予想できない実際のリスクは現時点で不明です。

 

これまでのワクチンでは、
  • 風疹ワクチンなどの生ワクチンは、催奇形性のリスクが否定できず、接種できない。
  • インフルエンザワクチンは製造過程で鶏卵を使うので卵アレルギーの注意が必要。    
  • 製造ロット(生産単位)で品質にばらつきがあり、効果や副作用に違いがある。

 今回のワクチンはこれらの可能性は少ない。

 

結局、アメリカ・イギリスでは、

以上のような情報から、妊娠中の医療従事者、エッセンシャルワーカー、および、現在では一般妊婦も、ワクチン接種をするかどうかを自己判断して、希望者に新型コロナワクチンを接種するという方針です。

 

ワクチンを接種した際の注意

ワクチンを接種しても、妊婦はこれまで通り、基本的な感染防御策を継続する必要があります。

  • マスクをする
  • 3密を避ける
  • 手洗い、アルコール消毒
  • まだ、今は旅行を避ける
  • 職場は、勤務について配慮する
ワクチンの副作用

2回接種(2回接種によりワクチン効果が高まる)が必要なファイザー、モデルナのワクチンでは、特に2回目の接種で副作用が発生する可能性がありますが、これは一般の人と同じです。もし、ワクチン接種後に発熱した場合の解熱剤としては、アセトアミノフェンが望ましいとアドバイスされます。

アレルギー反応を接種前に予測することはできませんが、過去に重症のアレルギー反応、特にアナフィラキシーショックなどの経験がある人は、ワクチンを接種するかどうかについて、あらかじめ医師と相談する必要があります。

ワクチン接種後の妊娠

風疹ワクチン接種とは異なり、妊活中に新型コロナワクチンを接種しても、避妊する必要はありません。ワクチン接種後に妊娠が判明しても胎児リスクがある可能性は少ないとされています。

 

結局、今のところ、日本では?

日本では、妊娠中の医療従事者への先行接種の結果が集計されたのちに、一般の妊婦も接種するようになると考えられますが、これについては、その時の、世間の空気感に左右される事になるでしょう。

季節性インフルエンザのように、「妊婦へのワクチン接種を推奨する」となるには時間がかかると思います。

ただし現時点では、日本独自の判断として、医療従事者への先行ワクチン接種の場合でも、催奇形性のリスクを考慮して、妊娠12週以降に施行するという事になりそうです。

 

いずれは、季節性インフルエンザワクチンのように、妊婦はワクチン接種の推奨となるか、もしかしたら数年後には、通常の風邪ウイルスの1つの扱いとなって、ワクチン接種も行われなくなっているかもしれません。

 

主な引用元

www.cdc.gov

胎児と新生児のしゃっくり(動画)

胎児は妊娠7ヶ月頃から、しゃっくりをするようになります。普通の胎動とは異なり、胎児がピクッ、ピクッと繰り返し動くので、心配になるかもしれませんが、病気ではありません。

私たち誰もが経験するしゃっくりですが、まれな例外を除いて治療の必要はないので、あまり医学的に研究されておらず、医師監修の記事にも、間違った内容が記載されています。

  • 胎児しゃっくり (超音波動画)
  • 新生児しゃっくり (誕生直後)
  • しゃっくり運動とは?
  • 胎児しゃっくりは、胎動カウントにカウントしない理由

 

胎児しゃっくり(超音波動画)


胎児しゃっくり

 

胎児しゃっくりの超音波動画です。胎児の縦断面で、画面右が胎児の上、左が下。右に肋骨の陰が見える胸部、中央で左右に動く横隔膜、左に腹部が見えます。横隔膜が繰り返しけいれん様に収縮します。大人のしゃっくりと同じ生理現象です。

ネット上では、妊娠初期の超音波検査で、妊娠9週~12週ごろに見られる胎児の全身動作を、胎児しゃっくりとしている記事がありますが、それは運動神経が未熟な時期に、骨格筋の制御が不十分でおこる動作で、妊娠5ヶ月以降には見られなくなり、しゃっくりではありません。妊娠中期以降に母親が感じる胎児しゃっくり運動とは全く別のメカニズムです。

 

新生児のしゃくり(出生直後)


元気に生まれた新生児のしゃっくり

 

 しゃっくり運動とは?

しゃっくりは、横隔膜のけいれん様収縮と声帯開閉の連動がうまく働かず起こります。病気ではありませんが、大人よりも新生児、乳児で起きやすく、また、よく起こす子と起こさない子がいて、個人差があります。

妊娠中の経産婦さんが、一人目の時は感じなかったのに、二人目はよくしゃっくりする、逆に、一人目はしゃっくりしたのに、二人目はしない、ということがよくあります。

 

私たちは、胸郭を広げる胸式呼吸と、横隔膜を上下させる腹式呼吸を、無意識のうちに組み合わせ、状況に応じた適切な呼吸を行っています。

運動時は、素早い換気のために胸式呼吸で胸を上下させますが、そのためには大きなエネルギーが必要です。安静時には、より少ないエネルギーですむ横隔膜を使い、ゆっくりとした腹式呼吸を行います。

それらを無意識でコントロールしているのは呼吸中枢と自律神経ですが、そのメカニズムが適切に機能しなかったり、まだ発育途中にあると、しゃっくりが起きます。横隔膜が収縮し肺を広げるタイミングに合わせて、声帯は必要十分に開いている必要があります。

 

妊娠8ヶ月以降、胎児は約20分おきに睡眠と覚醒のサイクルを繰り返すようになります。経験的には、胎児しゃっくり運動は睡眠の終わりから覚醒の始めに起こりやすく、寝起きの子供が寝ぼけるように、覚醒直前の呼吸中枢が寝ぼけていると解釈することもできます。

 

胎動カウントと胎児しゃっくり

 

胎児しゃっくりは、胎動カウントにカウントしない

妊娠28週以降、赤ちゃんは覚醒期に手足の屈伸、全身の回転運動などを行うようになり、そのような胎動では、同時に胎児の心拍数が一時的に増加します。覚醒期に四肢を動かすのは、胎児が元気なサインです。(自律神経による心拍数のコントロールが正しく働いている)

胎動カウントでは、最初はどんな胎動をカウントするのか分からなくても、数日すると、胎動カウントのタイミングが、自然に胎児の覚醒期に一致するようになり、大体20分(10~30分程度の幅があります)の間に、10回の胎動がカウントできるようになります。

一方、胎児しゃっくりは、睡眠期でも起こり、心拍数が増加する反応は少なく、大脳、運動神経が働かない異常な胎児でも呼吸運動、しゃっくり運動はするので、胎児の元気のサインとはいえません。

胎児しゃっくり運動を感じても、それ以外に普通の胎動(ポコポコ蹴る、ぐるぐる回るなど)をカウントできれば、胎児は元気と判定できます。

ということで、胎動カウントでは、胎児しゃっくりはカウントしません。

 

新型コロナ、妊娠中に母親から胎児へ感染

妊娠中、母親が新型コロナに感染したら胎児も感染する?

妊娠中の母親から胎児へ、新型コロナウイルス感染が確認されています。

(リンク先は興味のある方だけお読みください)

妊娠中の方は不安になりますが、母子感染の可能性はあるものの、頻度はまれで、胎児への影響は少ないようです。

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母子感染の経路には、

  • 妊娠中の経胎盤感染(母体血中→胎盤→胎児)
  • 分娩中の産道感染
  • 出生後の母子間感染

などがあり、新型コロナウイルスでは、いずれの経路でもウイルスが移行することがわかっています。幸い、これまでの知見では、風疹症候群やジカ熱のような、胎児に特別な後遺症を残したという報告はありませんが、もし、妊娠中に新型コロナに感染してしまうと、分娩方法や育児方法が制限されるので、最大限の感染予防が必要です。

2009年新型インフルエンザと2020年新型コロナの比較

 2009年の新型インフルエンザ(H1N1)は、近年では季節性インフルエンザとして、毎年流行していますが、初年度の2009年当時、アメリカでは最初の9ヶ月間に280人の妊婦が重症治療室に入院し、そのうち56人の妊婦が死亡し(アメリカ疾病対策センター報告)、また、感染した妊婦の約30%が早産したと報告されています。

一方、今回の2020年新型コロナ(COVID-19)では、2009年新型インフルエンザと同頻度で妊婦が重症化したという報告はありません。新型コロナも最初の9ヶ月間が過ぎ、新型感染症として比較するなら、妊婦にとっては、今回の新型コロナよりも、2009年新型インフルエンザの方がリスクが高かったといえます。

 

1つ注意があります。まれなことですが、母親がインフルエンザやふつうの風邪にかかった後、ウイルスが原因で子宮内胎児死亡となることがあり、新型コロナでも起こると考えられます。これは、母親の重症度とはあまり関係ありません。

子宮内胎児死亡の最も多い原因は臍帯因子で、次が感染症です。およそ分娩2000~3000件に1例と推測しますが、風邪症状の後、急に胎動を感じにくくなったような場合には早めの受診が必要です。

妊婦は、新型コロナに限らず、感染予防対策としてマスク、手洗い、密を避けることが、特に重要です。

新型コロナでロキソニンやイブプロフェンは使わない方が良い

「結局、新型コロナに罹ったらロキソニンやイブプロフェンは飲まない方が良いのか」

という記事が紹介されましたが、これを読んでも最後まで、はっきりとした結論は示されていません。

(リンク先は興味のある方だけお読みください) 
 記事の中で、

「新型コロナウイルス感染症に罹ったときにイブプロフェンを使用するとどうなるのでしょうか? ‥‥‥、これを検証した研究が報告されました」とありますが、この解釈は正確ではありません。

ここで紹介されているデンマークの研究は、新型コロナ陽性と判定される前にイブプロフェンを使用していた人が、新型コロナPCR検査陽性になった後に、どのような経過となったかを調べた調査です。

この研究では、イブプロフェンを服用した時期と、新型コロナ感染時期には時間差があり、新型コロナに感染してからイブプロフェンやロキソニンを使用して良いか、について検証した研究ではありません。

結局、2020年11月現在、世界中の多くの医師は、新型コロナ感染者に対してイブプロフェンやロキソニンを使用するリスクは、まだ判明していないと考えています。

呼吸管理が必要な中等症、重症のコロナ感染患者に医師の管理下で、デキサメサゾンなどが使用できる状況で、解熱剤も使わざるを得ないのであれば、使用可能かもしれませんが、多くの新型コロナ軽症患者が、発熱のみの症状で使用することは勧められません。

この冬、インフルエンザや新型コロナのようなウイルス感染を疑う発熱があった場合に、自己判断で、ロキソニンやイブプロフェンの服用するのは勧められません。

 

現在、多くの施設で入室、入場時に検温が行われています。新型コロナ前の日本人感覚で、風邪症状の際に症状緩和の解熱剤を服用して熱を下げ、検温をパスしようとする愚行は、避けるべきでしょう。

新型コロナ ロキソニン イブプロフェン

 

もらい乳・輸血の昔話と、C型肝炎ウイルスの発見

2020年のノーベル医学生理学賞となったC型肝炎ウイルスの発見や、新型コロナ報道で有名になったPCR検査法の発明は、1980年代のことです。当時、血液や母乳を介して感染するウイルスや、発がんウイルスのメカニズムが次々と明らかとなり、医療のみならず、日常生活にも影響を及ぼしました。

それ以前は日常的に行われていた「もらい乳」や「輸血」について、昔話を紹介します。

 

今では、他人の母乳を与えることに抵抗があると思いますが、かつて「乳母」という言葉があったように、古来、母乳分泌に恵まれた女性が、母乳提供と同時に、育児を請け負うことは、立派な女性の職業の1つでした。天皇家や将軍家においても重用され、中には権力を握る女性も現れました。

grasp reflex and sucking reflex

把握反射と吸啜反射
  • 昔、夜の寝台列車。赤ちゃん連れのお母さん、母乳があまり出ないのか赤ちゃんが泣き止みません。それを知った別のお母さんが「私、ちょうどお乳が張って‥、いいかしら?」と、赤ちゃんを抱っこして通路に出て授乳させたら、赤ちゃんは泣き止んだ。他の乗客はカーテン越しに、じっとその顛末に聞き入り、温かい気持ちになりました。
  • 1980年代の中頃まで、もらい乳は珍しくなく、今では考えられませんが、産休明けで母乳のよく出る助産婦さんが、夜勤中にお乳が張ってくると、新生児室にやってきて、よく泣く子に母乳を与え、翌朝、そのことを母親に話すと、とても感謝されることはあっても、非難されるようなことはありませんでした。

 

輸血についても、日赤の血液センターが遠かったり、必要な血液型が在庫切れだったりで、献血による血液が手に入らないということがよくありました。

  • 1980年代の大学病院。緊急に輸血が必要になり、家族に「患者と同じ血液型の人を20人集めてください」とお願いすると、身内が少なく困った家族は、自衛隊駐屯地に連絡して、隊員にきてもらい血液採取させてもらいました。当時、謝礼として、家族が血液提供者に1万円を渡すのが相場だったので、自衛隊員にも渡そうとすると「これも任務の1つですから‥‥」「私の血液で元気になってくれれば‥‥」と受け取らずに帰っていきました。
  • 1980年頃、産科病院の院長は、お産での急な大量出血に備えて、血液型別の職員リストを作成させていました。職員は年1回、感染症検査をしているので比較的安全と考えられており、当時の産科医は、妊婦の血液型と、その日の勤務者の血液型をチェックしておき、万が一、緊急輸血が必要なら、日赤の血液が病院に到着するまでのつなぎとして、産科医自身を含め職員から採血して輸血するようなこともありました。
  • かつては、売血により血液を確保する民間の商業血液銀行がありました。母乳には血液銀行のような組織的ルートはありませんでしたが、母乳分泌が不十分な時に、地域の事情をよく知る助産婦が、母乳分泌に余裕がある人を紹介するようなことはありました。母乳の提供者にはお礼として、お米や野菜を届けたり、金銭が支払われたりということはありました。中には、母乳提供を仕事としている人もいました。

 

現在、以上のような行為は認められません。1980年代後半、B型肝炎ウイルス、HIVエイズウイルス、ATL成人T細胞白血病ウイルス、C型肝炎ウイルスなどの感染様式が認知され、時代は変わりました。

 

現在、献血・臍帯血バンクは、日本赤十字社により、有害事例が起きないように絶えず改善され、厳密な基準で管理されています。

母乳バンクも、ボランティアの母乳による「母乳バンク」の活動が始まっています。

<お知らせ>

Informom(登録名)というタイトルで、妊娠・出産・産後についての情報発信を始めました。内容を充実させていきますのでご期待下さい。

妊娠中、ちゃんとしたローストビーフは食べられる

妊娠中のローストビーフ

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NHKドラマ「デイジー・ラック」出演の佐々木希さんのインスタグラムに、ドラマの幼なじみ役4人でローストビーフを食べた時の様子がアップされていました。

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この写真を見て、SNSのコメントや医療現場を知らない科学ジャーナリストの記事では、「妊婦はローストビーフを食べてはいけない」と、妊婦を不安な気持ちにさせています。産科外来でも、心配になった妊婦からの質問が増えました。妊娠・授乳中に「食の安全」を考えることは大事ですが、どのように伝えるか、十分な配慮が必要です。

妊娠中に注意を要する感染症はたくさんあり、1つ1つの疾患を取り上げて危険性を問えば、それらの怖い病気の話は加算され、妊婦の食生活、社会生活は成り立たなくなります。トキソプラズマ症、サイトメガロ感染症などは、確かに母子感染を起こす場合はありますが、頻度が高いわけではありません。そして、残念ながら、確実に予防する方法や、確実に治療する方法はありません。

妊婦が知っておくべき生活の注意を理解した上で、必要以上に不安にならないことも重要です。

かつて、トキソプラズマ、サイトメガロなどの感染症は、妊娠年齢までに感染を済ませ、抗体が既にできている人が多く、私が医学生だった40年前は、トキソプラズマ抗体の保有者(既感染者)は80%以上とされていましたが、最近では10%以下になってしまいました。約90%の抗体陰性(未感染)者が、妊娠中に初感染を起こすことが問題になります。(自分が未感染かどうかは調べることができます)

確かに、私が少年だった頃は、井戸水も飲んでいたし、野良犬、野良猫がうろくつような砂場や池でどろんこ遊びをしていたものです。

 

妊娠初期トキソプラズマ抗体陰性妊婦の方への注意事項

  • 野菜や果物はよく洗って食べる
  • 食肉は十分に加熱して食べる
  • ガーデニングや土や砂に触れるときは手袋をする
  • 猫との接触に注意する
  • 猫の糞尿処理は可能なら避ける

        <日本産婦人科学会ガイドライン>

 

私がこれまでに経験した妊婦トキソプラズマ症の多くは、海外生活で、現地の家庭料理として不十分に調理されたものを食べていたと思われる方々です。現地の人は、小さい頃から、血のしたたるレア肉を食べているのですが、そのような経験のない人がまねをしてはいけません。

最近、ネット上には「簡単に作れるローストビーフ」などの情報が数多くアップされていますが、それらのレシピを元に自己流で作る時には火の通りに気を付けましょう。特に、「簡単にできる」「自家製」「低温調理」といった内容には注意が必要です。

 

一流レストランの調理場、調理人には、感染を防ぐ知恵があります。加熱する食材と、加熱しない食材を扱う人の動線、調理テーブル、調理器具が混在しない配置や、食材に対する十分な知識など。ちゃんと修行したシェフが作るローストビーフは、ほぼ安心と言えます。

一般家庭で、食材別に包丁、まな板を使い分け、肉類、魚介類と、生野菜、果物などを別々に調理するのは困難です。自家製の保存加工肉、自家製ソーセージ、自家製チーズ、自家製の発酵食品などは注意が必要です。海外旅行のお土産として、本来、国内への持ち込みができないような食品も要注意です。違法というだけではなく、危険です。

 

国内大手の食品メーカーが販売する生ハムや生チーズは、安心して食べてよいと思います。デパ地下などで扱われている、商品の流通ルートが十分に考慮された食材も、危険性は少ないでしょう。ただ、かつての食品偽装事件のような事でも起これば、保証の限りではありませんが……。

 

ペットの猫は、その人が以前から飼っていた室内猫なら、ほとんど問題ありません。生肉をえさとして与えない。外で飼わない。妊娠中に新しくペットを飼わない。などの注意が必要です。

 

<産婦人科医の視点 追記>

このような母子感染症は、学会で周期的に研究熱が高まります。現在は、私が医師になってから3回目のブームですが、なかなか根本的な解決には至りません。

オーバーシュートとアウトブレイク 視点の違い

日本の新型コロナ感染報道では、感染患者数が指数関数的に急速増加する、爆発的な感染拡大のことを「オーバーシュート」と表現していますが、本来の英語としては、アウトブレイクが適しています。

オーバーシュートとアウトブレイクは、本質的に視点が違います。オーバーシュートはある意味、他人ごと、今の日本の状況につながる。

 

・英語本来のオーバーシュート(overshoot)も、日本で誤用されているオーバーシュートも、横軸が時間のグラフ上での、極端な数値変化を示します。今回の場合は、感染患者の数の増加が注目されていますが、現象を数的・客観的に見る、データアナリスト、湾岸戦争のCNNテレビ報道、クールメディアの視点で、どこか他人事、現場感覚が無い。

・アウトブレイクは《戦争などの》勃発、《伝染病などの》大発生、暴動などの意味ですが、これは実態のある、現場感覚のある言葉です。野戦病院、最前線、戦場カメラマン、現場の人間の体温が感じられる、ホットメディアの視点で、主観的で、臨場感がある。

 

「新型コロナウイルス感染パンデミックは、人間とウイルスの戦争だ」と表現されますが、

思いつくまま、例を挙げると、 以下

OS的:オーバーシュート(overshoot)的視点 

OB的:アウトブレイク (outbreak)的視点

 

※戦国時代や三国志のPCシュミレーションゲーム

ゲームを操作する人の視点 OS的

戦場で右往左往する足軽の視点 OB的

 

※太平洋戦争

軍司令部、××方面に兵力○○万人展開と議論する視点 OS的

大岡昇平「野火」の視点 OB的

 

※映画「プライベートライアン」ノルマンディー上陸作戦

国防総省の大佐の視点 OS的

トムハンクス演じるミラー大尉の視点 OB的

 

※映画「アウトブレイク」

証拠隠滅のために街の一掃作戦をしようとする軍部の視点 OS的

ダスティンホフマン、ウイルス対策に奮闘する大佐の視点 OB的

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映画「アウトブレイク」

※株・為替取引

経済評論家、データアナリストの視点 OS的

現場のトレーダー、投資信託の責任者の視点 OB的

 

※テレビの情報番組で出てくる、ほとんどのコメンテーター

OS的でも、OB的でもない、ただの野次馬

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OS的視点とOB的視点は、どちらも共に重要で、

客観的(大局的)視点、科学的視点、現場の人間としての視点、いずれも伴っているのが、例えば、ドイツのメルケル首相。

 

akachann99.hatenablog.com

オーバーシュートは誤用英語(新型コロナウイルス感染)

現在、日本では、「新型コロナウイルス感染の爆発的増加」のことを、オーバーシュート(overshoot)と表現していますが、これは誤用英語です。(一種の和製英語)

 

本来は、アウトブレイク(outbreak)という表現が正しい。

意図的にパニックにつながるようなアウトブレイクという表現を避けた、という言い訳も、あるかもしれませんが、今回の現象を表すのに、オーバーシュートは間違いです。

 一部の公衆衛生学者が、誤用を広めたとしか考えられません。

 

Overshootの本義は「狙ったところを外す」

Overshoot 「リーダース英和より」

1.(的を)越す。外す。

2.(停止線、滑走路などを)飛び越す。行き過ぎる。

3.(予定額、割当てなどを)超える。超過する。

 

工学用語として、電流などの複雑な変動現象を、経時的なグラフにした時、何かの原因で変動したものが、定常状態(ターゲット)に戻ろうとする時に、元のレベルを超えて、戻りすぎることをオーバーシュートといいます。狙ったところに制御することが難しいというニュアンスがあります。

制御のためのフィードバックシステムにおいても、フィードバックがかかりすぎるとオーバーシュートします。

 

その工学用語から転じて、金融工学・経済用語としても使われるようになり、株価や為替の変動において、まず何かの変動が起きて、そこから元に戻ろうとするときにもとのレベル(ターゲット)を超えて、戻りすぎることを意味しています。

一般に、オーバーシュートを起こすのは、市場が不安定な時に起こり、人為的に制御コントロールすることが難しいとされています。

 

私は臨床医なので、数理の専門家ではありませんが、日々、複雑系変動をする現象を対象にして仕事をしており、オーバーシュートは心拍数変動の異常サインとして、しばしば経験します。そのメカニズムは大体、解明されていますが、予測法、対処法は一律・簡単ではありません。

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経時的な胎児心拍数変動におけるオーバーシュート

今回、オーバーシュートが誤用されるようになったのは、推測になりますが、感染患者数が指数関数的、爆発的に増加して、制御できない状態になることを、一部の学者がオーバーシュートと、間違って表現したのだと思います。グラフの上で、スパイク状の増加が見た目にオーバーシュートに見えたとしても、それは本義とは異なります。

 

現場の感染症治療の専門家や、肺炎治療の医師が、一部の専門家の発言に異議を唱えることができなかったのではないでしょうか? 日頃交流がない、さまざまな分野の専門家が集まった際におこる、日本の縦割り構造の問題点です。

 

将来、今回の新型コロナウイルス感染に対する、日本の対応が世界から評価されたとしても、オーバーシュートという表現がアウトブレイクと同じ意味で使われるようになる可能性は少ないでしょう。(言葉は生き物なので分かりませんが……)

 

akachann99.hatenablog.com

経済評論家 森永卓郎さんが犯した2つの過ち

2020年2月、経済評論家の森永卓郎さんは、取り返しのつかない、大きな過ちを2つ犯しました。

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経済評論家 森永卓郎さん

2020年2月17日、あるラジオ番組で、

森永「私は、今までの人生で、株を売ったことは、一度も無かったんですが、あのぉ、株主優待のを残して、先週、全部売りました。(今の株価は)おかしい、どう考えてもおかしい」

番組ホスト「……、合いの手発言……」

森永「(株価)絶対、落ちると思う」、「私が売るのは、人生初です」

 

この日、多くの人が不安な気持ちを抱きながらも、まだ日経平均株価が24000円前後、アメリカのダウ平均株価が29000ドル台の過去最高域を維持していましたが、その1週間後、

2月24日にアメリカ、日本では休日明けの25日、株価急落が始まりました。

 

森永卓郎さんの発言が、暴落の引き金になったとは、証明はできませんが、株価のような不確実性現象においては、バタフライ効果が発生するとされています。

「北京で蝶が羽ばたくと、それを引き金にして、ニューヨークで嵐が起こる」と例えられる現象ですが、

この日の放送後に、リスナーの中で、株トレーダーのような人ではない、普段はアクティブに売り買いしない普通の人が、一定の数、手持ち株を売ったと考えられ、引き金になった可能性は否定できません。

日常の売買を左右する大手の取引ではなく、額は少なくても、普段は想定できないような、これまでとは違った動き(variant)が、引き金になりやすい。

加えて、常識的な経済評論家、経済アナリストは、自身の売買については公共の場で、発言しないものです。もともと、いつかは下がるだろうという、タイミングを見計らっていたとはいえ、経済評論家の肩書きをもつ人が、決して発信してはいけない内容だったと思います。

 

その後、株価暴落後の、あるテレビ番組で、

森永「私は、日経平均が24000円の時に、手持ちの株を全て売りました。まだまだ、下がると思います」

他の出演者「では、森永さん、いくらまで下がると思います?」

森永「私は、日経平均7000円まで下がると思っています」

他の出演者「えっ、7000円ですか?」

森永「はい、私は、その時点で、買い戻せば、儲かる……」

 

世間が、コロナ禍の対応で苦労する中、経済評論家としては、脇の甘い発言です。

 

新型コロナウイルス感染に関する発言。

森永さんは、コメンテーターとして、多くのテレビ番組に出演して、PCR検査をもっとするべきだという立場で、およそ次のような発言を繰り返していました。

 

あるテレビ番組で、

森永「新型コロナ、どうしてPCR検査をもっとしないんだ。と私は強く言いたい。韓国やイタリアのように、どんどん検査して、有病率、発病率、致死率をはっきりさせるべきだ、1000人もPCR検査をしたら統計的に95%の確率で、正しい答えがわかる。どうしてサンプル検査を行わないのか?」

 

別番組で、

森永「ランダム化した1000人のサンプル調査、もしよかったら、私がタダで引き受けてもいい……」

 

アイドルの人気投票と、命にかかわる疫学分析を、同レベルに考えているのでしょうか? ランダム化、サンプル評価がいかに難しいか、森永さんは知っている上で、確信犯的に「どうせ、自分にその仕事は回ってこないから……」という無責任な発言です。

 

クラスター発生している状況は、まだ発生に濃淡がある状態です。

中学校の理科、水に塩を溶かして濃度を調べる際には、十分にかき混ぜないで、溶けきっていないと、場所によって濃度が異なるので、一部をサンプリングしても正しい濃度はわからない。

現在は、統計的に正しい答えが得られる状況ではありません。多くの要素が絡んで、統計的に正確な予測値を出すことができないから、いつ、どこでアウトブレイク(爆発的発生)するか判らない。

でも、できれば爆発的発生は起きないでほしい! と現場の多くの人が頑張っている、それが、今の日本の現状です。

 

このような状況で、テレビ・ラジオで、株をタイミングよく売った話をする森永さん。かつて橋下さんが、森永さんを「馬鹿コメンテーター」と呼びましたが、今回は、致命的な過ちを犯したのではないか、と思います。