現役医療者の視点

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新型コロナ禍の妊娠・育児 頑張るお母さんたち

コロナ禍の中、産後うつが増えている! という報道が続き、中には産後の4人に1人が産後うつ」という記事までありますが、実態は違う印象があります。コロナ禍の中でも、ほとんどのお母さんは意外と元気で、逆境に負けていません。

(コロナ禍で、産後うつが増えているという報道については、最後に記載しています)

 

産後1ヶ月の健診では、産後うつ病の質問票によるリスク判定を行い、問題点がある場合には、保健師支援や精神保健福祉相談と連携をとりますが、特にコロナの影響で増えたという印象はありません。

 健診の最後に、妊娠・育児を振り返りながら、

「新型コロナでも頑張りましたね。大変でした?」

と声をかけてみると、

「分娩場所が急に変更になって、どうなるかと思ったけど、むしろ気合いが入った」

「里帰りも、夫立会いもできなかったけど、何とかなるものですね」

「コロナの影響で宅配、デリバリーが便利で、夫に気兼ねなく頼むことができた」

「妊娠中、仕事は在宅テレワークが主になり、通勤がなくて助かった」

「夫がテレワークで自宅にいる時間が多く、家事や買い物を助けてくれた」

「期待してなかったけど、コロナのせいで夫の産休が取れて、助かった」

「コロナ前は完全母乳と思ってたけど、こだわらないで混合でいいやと思ったら、いつの間にか、ほぼ母乳オンリーになってた」

「コロナで孤立ってニュースで聞いてて、私だけじゃなくて、みんな孤独だと思ったら、私には、この子がいるしと、むしろやる気が出た」

 

コロナ前と同様、産後うつリスクを示す方もおられますが、多くのお母さん方が、新型コロナ禍の中を頑張ることができている要因を紹介します。

 

新型コロナ禍の妊娠・育児  頑張れている要因

働き方改革が一気に進んだ

オフィスワークだった人は、新型コロナで在宅ワークやネット会議が増え、通勤の苦労、残業、予定外労働が減り、計画的な生活ができるようになり、妊婦にとって恩恵となっています。

マタニティーハラスメントの減少

働き方が変化し、以前に比べ、相対的にマタニティハラスメントが減少しています。これまでなら会社や上司に相談しても通らなかった希望が、受け入れてもらえるようになってきています。

厚労省の新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による、事業主を支援する助成制度の効果があるようです。

 事業主宛、妊娠中の指導事項のうち、特記事項として

 新型コロナウイルス感染症の感染のおそれの低い作業への転換、

 または出勤の制限(在宅勤務・休業)の措置を講じること

かつてなら、このような指導事項は通用しない職場でも、コロナ禍の意識変化、助成制度のおかげで、理解してもらえるようになりつつあります。

  

宅配・デリバリー食の普及

スーパーや生協の宅配、アマゾン・楽天、デリバリー食などが利用しやすくなったことに加え、コロナ禍の中、必ずしも贅沢とは見なされないようになり、以前ならあったかもしれない、夫や姑からの「手抜きじゃない?」圧力もなくなった。

(かつて「毎日、店屋物」、「毎日、出前」は、家事の手抜きを非難する表現でした)

 

妊娠・育児へ、理想プランを求めなくなった

コロナ前のマタニティープランには、「妊娠中にあれをしたい」「出産・育児は○○で」などの理想イメージが記入されていましたが、最近は、妊娠したことの喜び、赤ちゃんへの素直な思いなど、シンプルな記載が増えました。出産・育児に求めるハードルを不必要に高くせず、はじめから、ある程度割り切っているのではないでしょうか。

マタニティービクス・ヨガなどのクラスは今も中止されていますが、「Youtubeを見ながら毎日ヨガしてます」とか、むしろ運動不足を意識するようになり、できる範囲でインドアスポーツや散歩など、適度な運動を工夫しているようです。

 

相対的に、孤独感や疎外感が軽減

誰でも気分が落ち込み、憂うつになることはありますが、特に、周囲の人が楽しそうだったり、うまくやっている時に、「自分だけなぜ」と思う感情が、孤立・疎外感を増悪させます。

コロナ禍の中、みんなが同じ状況だということが明らかになり「自分だけじゃない」と実感でき、相対的に、孤独感や疎外感は軽減している可能性があります。

(この場合、周囲が「あなただけじゃないのよ」と声をかけるのは、逆効果です)

夫の浮気の心配が減った

産後うつの誘因の1つに、夫への不満があります。夫が浮気を始めるきっかけの1つは、妻の出産・育児、里帰り期間ですが、緊急事態宣言下で、夫の飲み会や接待が減り、帰宅も早くなって、必要以上に猜疑心を持たなくて良くなっています。

(実際の浮気が減ったかどうかは不明です)

新型コロナの第一波の頃、DVの顕在化が報道されましたが、それは潜在的なDVが表面化しただけで、年間を通して増えたのかについては、コロナ禍の終了後に検討が必要です。

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新型コロナが流行する以前から、日本産婦人科医会は、世界保健機関(WHO)の見解などをもとに母親の10人に1人が産後うつを発症する恐れがあり、対策が必要としてきました。

これまで通り、産後うつの予防支援や、経済的な援助は重要ですが、新型コロナと絡めた社会問題として、必要以上に不安をあおるのは問題です。

せっかく妊娠したのに、周囲の人間、友人から

「妊娠? 何考えてるの、世の中、コロナで大変なのに、今じゃないでしょ!」

「妊娠? 産後うつが増えてるっていうのに、大丈夫なの?」

とか、心ない声をかけられることもあるようです。