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現役産科医の視点

生命誕生の現場、産科医の視点から

帝王切開が増える本当の理由 日本の産科医療2020年問題

今年410日、WHO世界保健機関)は「帝王切開は医学的に必要な場合にのみ行われるべきである」と、安易な帝王切開に対して警鐘を鳴らしました。世界的には、ブラジルや中国沿海部のように出産の約50%が帝王切開の地域がある一方、医学的に必要な場合でも帝王切開ができず、母体・胎児を救命できない地域もあります。

1985年のWHO勧告以降、適正な帝王切開の割合は全出産の1015%とされてきました。現在、先進国のほとんどがそのレベルをオーバーしており、医学的・社会的な要因の変化を考慮して、この割合は見直される予定ですが、「適正とは言えない帝王切開」が増えているのも事実です。 

日本では1980年代以降2000年代初めまで、適正な帝王切開の割合(15%以下)を保ちながら、世界トップの低い周産期死亡率(妊娠22週以後の死産+早期新生児死亡の割合)を実現してきました。しかし、この10年ほどの間に急速に帝王切開が増加し、現在は20%を越えています。

帝王切開が増える理由として、しばしば高齢出産、不妊症治療後妊娠、妊娠高血圧、妊娠糖尿病、子宮筋腫などのハイリスク妊娠が増えていることが指摘されますが、本当は、そのような妊婦側の医学的要因よりも、医療の提供側の要因、社会的な要因による影響の方が大きく、事情は深刻です。

2014529NHKニュース おはよう日本「増える帝王切開 求められるケア」(以下 関連ブログ)

で、帝王切開の増加が話題になりました。番組中、大学教授が

「(出産前に)赤ちゃん側のこともよく分かるようになったので、赤ちゃんの状態を評価した上で、無理をしないで帝王切開をする症例は確実に増えていると思う」と述べていますが、医学的に赤ちゃんの状態が正確に判るようになったのであれば、不必要な帝王切開は減少するはずです。

実は、リスクのある妊娠や、危険とされる兆候が出た時に、このままで大丈夫なのかの判断がつかないため、予防的に帝王切開が行われているということです。妊婦とその家族も「危険性があるなら無理をせず帝王切開でお願いします」となりがちです。不確実に不都合な事実が示されると安全策を選びたい、不確実な状況を早く終わらせたい、となるのは自然の流れです。

 

最近の多施設調査(分娩総数約16000、帝王切開約4000件)による、帝王切開の理由の内訳は、

1、既往帝王切開     (35%)

2、骨盤位(さかご)   (14%)

3、児頭骨盤不均衡    (13%)

4、胎児モニターの異常  (13%) 

5、多胎(双胎など)   (7%)

6、子宮手術の既往    (3%)

7、その他

以前は、既往帝王切開、骨盤位(さかご)、双胎(ふたご)であっても、医学的に条件が良ければかなりの施設で経腟分娩を行っていましたが、10年ほど前から、ほとんどの施設で予防的に予定帝王切開が行われるようになりました。30歳代の中堅産婦人科医の中には、既往帝王切開、骨盤位、双胎の経腟分娩を経験したことも、観たこともない方が増えています。

現在でも、緊急帝王切開で15分以内に娩出できる。NICUが完備している。新生児医、麻酔医が常駐している。などの条件が整えば、条件の良い既往帝王切開、骨盤位、双胎は経腟分娩が可能であると考えている産科医はいますが、もはや少数派です。そのような経験を持つ、かつての産科医療を支えてきた産科医の多くが50歳代となり、今後510年の間に現場をリタイアします。産科医療はサイエンスとアートの融合と言われますが、2020年以降、技術の継承は途絶えることになりそうです。多くの日本の職人に共通する課題かもしれませんが、これが産科医療の2020年問題です。

 

2010年の産婦人科医療改革グランドデザインよれば、 (以下、一部抜粋)

20年後、年間90万分娩に対応する。

・地域で分娩場所が確保されている。

・産科医および助産師が不足していない。

・世界最高水準の産科医療が安定的に提供されている。

とあり、当然実現してほしい内容ですが、専門家の間では実現は非常に困難と考えられています。

アメリカの帝王切開率は35%、周産期死亡率は日本の3倍です。日本の医療も、やがてはアメリカと同じレベルになる可能性を否定できません。