現役医療者の視点

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「母乳」の販売を禁止すべき理由

「偽母乳 ネット販売 細菌1000倍、乳児に危険」 毎日新聞

の報道で、実態に驚かれた方も多いようです。

今回、少量の母乳に粉ミルクを加えたとされる“偽母乳”が問題になっていますが、たとえ、善意の提供者からの衛生的な本物の母乳であっても、不特定多数から提供される母乳は乳児にとって非常に危険です。 

母乳は血液から作られる広義の体液です。身体から分泌される体液には、汗、唾液、涙、尿などもありますが、中でも母乳、精液は血液中の細胞成分を多く含んでいます。その細胞成分を介して感染を起こすウイルスの代表がHIVエイズウイルス、ATL成人T細胞白血病ウイルス。その他にも、汗や唾液ではうつらないけれど、母乳や精液では感染してしまう病気も数多くあります。

母乳の提供には、日赤献血事業や血液製剤と同程度の管理が必要であり、特に、提供者不明の「母乳」の販売などは一刻も早く行政的に禁止するべきです。

 

近年話題の「母乳バンク」についても、多くの方が誤解されているようです。

NHKニュースおはよう日本 「母乳バンク」実現に動き出した医療現場

「母乳バンク」の母乳は、新生児集中治療室(NICU)などの一部の新生児に限って、必要な場合もありますが、多くの母親には必要のないものです。母乳バンクに関する中途半端な報道が、母乳信仰を煽る結果になっています。

女性「なんで、自分は母乳が出ないんだろう、赤ちゃんに申し訳ない……」、実は残念ながら、母乳バンクは解決策になりません。

母乳だけで育てることを完母(完全母乳)と称して、自慢げに語る人がいますが、最近、医師の間では、母親の差別化につながるので、適切な哺育・育児のためには良くない表現と考えられています。1ヶ月検診で「初乳は与えたけれど母乳は続かなかった」とか、「母乳2割、ミルク8割の混合授乳」の方もおられますが、それでも母乳をあげたことには大きな意義があります。

乳児死亡は、この50年で約10分の1になりましたが、母乳哺育が増えたから乳児死亡が減ったのではありません。ミルクしか飲まなかった新生児も立派に育っています。むしろ、よく研究されたミルクがあったからこそ助かった、健康に育った子供もいます。もちろん母乳哺育には良い点がたくさんあります。しばらく母乳に関する話を続けます。