現役医療者の視点

現役医療者の視点  AllAboutガイド

働く女性は流産しやすい? 働く女性と妊娠

全国労働組合総連合(全労連)の女性部がまとめた調査結果が、ニュース配信されました。

www.bengo4.com

(弁護士ドットコム)

「働く女性は流産しやすい?」と思わせる内容の記事ですが、実は、そうではありません。

◆流産の実情

妊娠検査薬が市販されるようになり、以前より早く産科施設を受診される方が増えました。おかげで禁酒禁煙、服用薬の注意、流産・子宮外妊娠などの異常妊娠の早期診断など多くのメリットがありますが、一方、以前なら生理不順と区別がつかなかったような、ごく妊娠初期の流産も、はっきり診断されるようになりました。現在、妊娠検査が陽性に出て産科施設を受診した人のうち、約15%が流産されます。

もし仮に、流産せずに出産できた残りの85%の人が、次の妊娠で15%が流産すれば、さらに12.75%(0.85×0.15×100)、つまり、単純計算では2回の妊娠で、27.751512.75)%の人が流産を経験することになります。

実際には、1度しか妊娠しなかった人や、流産しやすい体質、流産しにくい体質の人など、正確な母集団の設定は困難なのですが、経験的に、妊娠したことのある女性の約4人に1人が流産を経験しています。 (過去の妊娠歴記録から)

これは専業主婦、自営業、中小企業勤務、また、使用人を抱えたお姫様であっても同じです。つまり、今回のアンケート結果は「働く女性も流産を経験する割合には差がない」ということを示しています。

◆妊娠と仕事

よく「妊娠中、どの程度仕事をして良いですか?」と質問を受けますが、例外的なケースを除いて、「日々の仕事は、これまで通りで良いですよ」と答えています。今回の報道に限らず、もし「働く女性は流産しやすい」という誤ったメッセージが広まると、女性の社会進出にもブレーキになりかねません。

自営業で休日がない、非正規で複数掛け持ちなど、健康的な生活を維持できないような仕事は問題です。

 

重要な事は、働く女性に限らず、妊娠経過には個人差があり、ふだんは経験しないような身体症状を感じることも多くなります。妊婦が不安にならないように、生活や職場の環境、雇用条件の柔軟な対応が求められています。

 

◆「マタニティ・ワークプラン」のすすめ

現在、多くの産科施設では、妊婦さんの「バースプラン」を参考に妊娠、出産、育児をお世話します。

(夫立会希望、会陰切開をしないでほしい、母乳だけで育てたいなど、全てかなえられるわけではありませんが)

同様に、働く女性が妊娠したら個別の実情に合わせて、本人、事業主、産科担当医が、妊娠中の仕事について情報を共有することが大事です。この際に、有用なのが次の連絡カードです。

厚生労働省 母性健康管理指導事項連絡カード

これまでは、何か問題がある時にだけ、診断書代わりとして使用されることが多かったのですが、妊娠経過が順調な人も含めて、母子手帳のように記入して、本人の意向を医師と相談の上、職場に伝えるカードとして利用します。

(「マタニティ・ワークプラン」は著者の造語です)

乙武洋匡さんの先天性障害と胎児超音波診断

最近話題の乙武さんには、自らの著書「五体不満足」にあるように、先天性四肢切断という障害があります。このような生まれつきの障害(先天異常)は、大きく2つに分類されます。

 

| 精子と卵子が受精した段階で決定する、染色体や遺伝子の異常による先天異常

ダウン症などの染色体異常

遺伝子の異常で起こる遺伝病

 

| 正常な受精卵が発育する過程で、外部からの要因により障害が起こる偶発的な先天異常

先天性風疹症候群、先天梅毒などの感染症

サリドマイド、アルコールなどの薬物

先天性絞扼輪症候群(羊膜索症候群)などの物理的外力

その他(放射線など)

 

乙武さんの先天性四肢切断は、絞扼輪症候群に属しており、妊娠初期、何かの原因で身体の一部に癒着や引きつれを起こし、その部位の発育が制限されます。通常は羊水の潤滑作用により障害は起きませんが、健常者との違いは紙一重で、わずかな偶発的な変化が原因になります。

パンの生地をこねる時に打ち粉が足りないと張り付いて、きれいに成形できないような感じです。

 

このような異常は、妊娠初期の超音波検査で診断できるようになりました。

 

| あるケース(複数の実例を元に創作)

妊娠12週の超音波検査で「胎児の片腕の欠損」が疑われ、「超音波検査で判明した胎児異常は教えてほしい」という同意を得ていたので、本人と夫に「まだ確定できませんが、片方の腕が欠損している可能性があり、妊娠16週(妊娠5ヶ月)に再検査が必要です」と説明しました。妊娠の喜びが一転、ご夫婦は不安な日々を過ごされたようです。

16週に診断が確定し、「やはり、赤ちゃんの片腕(上腕)の根元から先が欠けています。もう片方の腕と両脚は正常です」、さらに詳しい説明として「可能性として、先天性絞扼輪症候群が考えられ…」と、この異常の場合、いつも乙武さんには申し訳ないと思いながら、彼の名前を例に挙げて「これは乙武さんと同じタイプの障害で、染色体異常などの可能性は低いのですが…」と話した段階で母親は号泣され、日を改めることにしました。

乙武さんと同じ知性を持って生まれるとは限らず、単純に「頑張れ」と言うわけにもいかず…、結局、その後の面会で妊娠の継続を断念されました。このような場合に同様の選択をされる方は多く、今後、乙武さんと同じ障害の人はいなくなる可能性もありますが、果たしてそれで良いのか難しい課題です。

 

| 乙武さんの最近の話題について

乙武さんのような障害のある方が結婚し、子供を作ろうとする時、肉体的障害よりも社会的な障害が課題になります。おそらく通常の生命保険や学資保険などには簡単には入れないでしょうから、推測ですが、彼は「奥さんや生まれてくる子が、社会的に人並みの人生が送ることができるめどが立たなければ……」と、普通の人以上に、親になる責任を考えたと思います。

 

子孫を残す欲求が低下した人が増え、また、子供はいらない、親になりたくない人も意思表示できる時代です。ならば一方、1人でも多く自分の種を残したい、たとえ相手を複数にしてでも…。そして、そのような強い精子を本能的に求める女性がいてもおかしくありません。社会の多様性を認めるとは、そういうことだと思います。

乙武さんは、政治家の道を目指した段階で、バッシングを受ける結果となってしまいましたが、ヒト生態学的には大変残念なことです。何かもっと良い解決があったと思います。

優生保護法による強制的不妊手術の実態

国連女性差別撤廃委員会が、加盟国の女性差別の現状や、差別解消の進捗状況に関する定期的なレポートの中で、20162月、日本政府への質問として「(過去に日本で行われていた)障害のある女性への強制的不妊手術の被害者に対する補償」について情報の提供を求めました。

 

日本で、身体的障害や知的障害を理由に相当数の強制的不妊手術が行われていたことが報道され、驚かれた人も多いと思います。

日本政府は、当時としては正しい手続きの上で行われており、1996年、優生保護法から母体保護法へと見直され、現在は、強制的な不妊手術は行われていないと回答しましたが、本当に正しい手続きがとられていたのか? 被害者への謝罪は必要ないのか? 疑わしいと考えられます。

 

不妊手術

女性の卵管結紮術

  卵管の一部を切除し、卵子と精子が受精しないようにする。

男性の精管結紮術 

  精管の一部を切除し、精液に精子が含まれないようにする。

(優生保護法による強制的不妊手術は男性にも行われていました)

f:id:akachann99:20180402013715j:plain

精管結紮術・卵管結紮術  術式の一例

子宮摘出術

  本来、不妊手術としては認められませんが、発展途上国や共産圏国、日本の一部において、子宮全摘術が行われていました。

 
ある実例

1980年代、ある作業所に勤務する20歳代後半の軽度知的障害の女性が、職場で縁があり理解のある男性と結婚することになり、その女性の母親が「娘に大変なことをしてしまった」と相談に来院。

女性は小学校低学年で軽度の知的障害(当時の精神薄弱)と診断され、小・中学校は養護クラス。母親によれば、子供の頃から魅力的なところがあり、10代半ばで妊娠・中絶を経験。将来を心配した母親が福祉関係者に相談したところ、優生保護法により、親の同意があれば、卵管結紮術が受けられると聞いて深く考えずに手術を受けさせた、という話でした。

現在なら、卵管が結紮されても体外受精で妊娠可能ですが、当時は、卵管を結紮するとほぼ妊娠不可能で、一部の病院で行われていた卵管再吻合手術も成功率は低く、経済的にその病院までは行けないとのことで、成功率は低い事は納得の上で、血管外科医の協力で血管吻合術の手技で卵管再吻合手術を行ったところ、うまく自然妊娠に至り、母親に感謝された。 (秘密の保持に留意して記載しています)

 

障害者と診断されていたとはいえ、将来、普通の社会生活、家庭生活をおくることができていたかもしれない未成年の男女に、優生保護法の元で多くの強制的不妊手術が行われていました。

 

(旧)優生保護法とは (一部抜粋)

1条(法律の目的)

この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。

2条 (定義)の1

この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもって定めるものをいう。

 

(以下 筆者追記)

 本条文の「生殖腺を除去することなし」の解釈として、生殖腺とは卵巣、精巣であり、子宮は生殖腺ではないから摘出してよいと判断され、全国の医療機関で、研修医の修練のために子宮摘出術も行われていました。当時の担当者は障害者の親に対して「学用患者なので費用はいらない、卵巣を残せば女性ホルモンは出るし、障害者は月経出血がない方が楽だろう」と述べていたとのことです。術式研究、手術修練の意図もあったと思われます。

   

時代背景

おそらく1970年代までは、強制的不妊手術は、社会的に必要性のある合法的な手術として、あまり罪悪感などはなかったと思います。精神疾患に対するロボトミー手術が行われ、小説「白い巨塔」の産婦人科医、財前又一が活躍した時代ですから……、

当時は、身体的障害、知的障害のある人の妊娠は、経済的問題、社会的体面から家族も困るだろうと、形式的な審議だけで、本人の同意のない手術が行われていたと推測されます。

「脳性まひ」のような遺伝性疾患ではない人に対しても、優生保護法が拡大解釈され、強制的不妊手術を行うこともあったようです。

関係者の多くが「強制的不妊手術は問題だ」と認識したのは1980年代と思います。今でも、当時現役だった80歳以上の医師と話をしていると、優生思想に関する認識の違いを感じます。これは現在の出生前診断の混乱の一因にもなっています。

 

 

映画「さようならCP」、脳性まひ患者と性

脳性まひ(CP)とは、妊娠中、分娩中に起こった低酸素症、感染症、未熟児などが原因で、運動機能、姿勢の障害による不自由が運命づけられ、根本的な治療はない、非遺伝性の疾患です。実は、五体満足に生まれた人との違いは紙一重で、知的レベルは高く、それゆえの辛さ、悔しさがあり、映画「さようならCP」で、その状況が見事に表現されています。

 

多くの人は、人生には何度かチャンスがあり、人生のやり直しもある程度可能という意識があります。しかし、脳性麻痺の人にとっての人生のやり直しは、障害のない子孫を残すこと以外にはなく、その欲求は誰も否定できません。   

 

ヒト生態学的には、五体満足で生まれ、生殖期の生活に満足感のある人は、子孫を残す本能が低下する傾向があります。五体不満足で生まれる、生殖期に生きることに必死、人生に不満足な人は、子孫を残したい本能が強い傾向があります。昔から経験的に「貧乏子沢山」とされますが、生物的な本能と考えられます。

ヒトとしての繁殖力は、一流大学を出たエリートよりも、優秀かもしれません。

 

 追記)強制的堕胎手術などが行われていたハンセン病患者に対しては、政治的判断により謝罪が行われました。優生保護法による障害者に対する強制不妊手術は、それ以上に人権への配慮を欠いた実態があったと考えられます。

 

双子の不思議 背が高い女性は双子を妊娠しやすい?

女優の杏さんが双子の妊娠を発表されました。所属事務所のFaxによると、

「……、双子だということも分かり、この場合安定期と特に言える時期がございません。しばらくの間、静かに見守って頂ければ幸いです」とのことです。

「妊娠はおめでた」とはいえ、双子の妊娠では、普通の妊娠とは違う苦労もたくさんあります。今回、双子についてのミニ解説、最近の話題について紹介します。

 

一卵性双胎: 1個の受精卵が、卵管を通過して子宮内へ着床する頃(受精後10日間)までに、2個に分割して発育するもの。遺伝子的に同質で、性別は同性、血液型、組織適合性などは同じ(世界で数例の例外あり)。受精卵が分割する時期によって妊娠中の注意が異なる。

 

二卵性双胎: 同時期に2個の卵子排卵され、それぞれが精子と受精して2個の受精卵ができ、子宮内に着床し発育したもの。遺伝子的に同質ではなく、性別は同性、異性のいずれの可能性もあり、血液型、組織適合性も一致するとは限らない。不妊治療で排卵誘発剤を使って増える双子は二卵性です。

 

一卵性双胎と二卵性双胎の頻度

一卵性双胎の頻度は、人種や遺伝的要因に左右されずほぼ一定で、0.30.5%(分娩1000件に35組)。

二卵性双胎の頻度は、人種や遺伝的要因、不妊治療の有無で異なり、自然妊娠では黒人で高く、次いで白人、黄色人種の順となる。ナイジェリアで約5%(分娩1000件に50組)、米国黒人1%、米国白人0.7%と報告されており、世界的には一卵性より二卵性が多いが、日本、台湾、韓国では0.20.3%で一卵性の方が二卵性よりも多い。ただし、現在は不妊治療により二卵性が増えている。

 

多胎妊娠の頻度

かつて、日本における多胎の頻度は、大ざっぱに双子は1/100(分娩100件に1組)、三つ子は1/10,000、四つ子は1/1,000,000、五つ子は1/100,000,000とされてきました。これは、一人追加して妊娠する確率が1/100で、確率のかけ算ということですが、最近は不妊治療の影響で当てはまらなくなりました。

 

母親の要因

母親年齢が高いと多胎となりやすく、3539歳で頻度が高いとされています。不妊治療を受ける率が高いことも一因ですが、初経後の累積排卵回数も影響し、同様に、初産婦よりも経産婦の方が多胎の頻度が高い。

身長が高い女性、体重の多い女性は、多胎の頻度が高いとされており、栄養状態が関係するといわれています。双子が多い家系も存在し遺伝的な素因も関係します。これらは、卵巣を刺激するホルモンが体質的に多く分泌されているのではないかと考えられています。

ヒト生態学的には、四季に恵まれ農耕定住して繰り返し出産できる民族は、1回の出産リスクを減らして、出産回数で子孫を増やそうとし、狩猟移動する民族は、出産回数を減らして出産のリスクが増える可能性があっても多排卵で子孫を増やそうとする。その結果と考えられます。

 

2010年以降、双子は減っている?

1980年代以降、不妊治療のために多胎妊娠は増え続け、母親のリスク、未熟児出産のリスクから、安易な不妊治療に警鐘が鳴らされてきました。確かに以前は、妊娠率を上げるために受精卵を多めに子宮内に戻しており、中には「とにかく妊娠率を上げて評判を良くして(稼ごう!)、妊娠したら産科施設に送って後は知らん……」といった不埒なクリニックも存在しました。

最近、優秀な不妊治療施設では、受精卵の評価や凍結卵の技術が進歩して、不妊治療による双子の割合は減少してきました。これからは、産科施設と良い連携が取れない不妊クリニックは淘汰される時代になるでしょう。

 

双子の母親の気持ちは複雑

1980年代までは、一人生まれた後に「もう一人赤ちゃんがいる」と、お産の時に初めて、双子が判明することもありました。最近は、超音波検査のおかげで、妊娠10週までに双子と診断できますが、妊娠初期に双子が分ると、妊娠の喜びよりも、本人や家族が不安を感じたり、経済的な心配から、中には十分に考慮せずに中絶を選択する事態となることもあります。実は、「双胎妊娠をどのように本人に伝えるのか」は、産科医にとって経験が必要な難しい仕事なのです。

 

「多胎妊娠は単胎妊娠と何が違うか」2004京都大学 横山美江さんの調査では、

妊娠がわかった時、嬉しくなかったと回答した人の割合は、単胎児の母親で1.6%、多胎児の母親で20%近くあり、非常に不安、あるいは不安と回答した人の割合は単胎児の母親で24.9%、双子の母親で57%と、三つ子で66.7%と報告されています。

 

もし、妊娠中の杏さんを街で見かけたとしても「妊娠おめでとう」と声をかけるのではなく、黙って静かに見守ってあげることが一番大事だと思います。

「胎教」 その3

 ◆「胎教」を考える時に知っておきたい事

・胎児の発育

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感は、目、耳、鼻、舌、皮膚の各器官により身体外の情報を得る手段です。健常な成人には当たり前の機能ですが、実は、生命が長い歴史の中で獲得した貴重な能力です。

ヒト発生学には「個体発生は系統発生を繰り返す」という概念があります。受精卵ができて、初めの数週間の短期間に、鰓(えら)ができたり、尻尾があったり、地球上の生命進化の過程を経て、妊娠12週頃にヒトの器官の元ができあがります。12週以降は、数ヶ月をかけて器官の発育、機能の成熟、各器官の連携が完成し子宮外での生活が可能になります。

妊娠28週頃には、胎児自身のリズムで睡眠・覚醒などの周期的な活動が始まります。大人の日内リズムは朝の日光でリセットされますが、胎児に日光は届かないので、それに相当する外部からの周期的な刺激として、母親の活動や食事が考えられます。つまり、母親がだいたい同じ時間に起きて朝食を取ることで、増加するアドレナリンやブドウ糖胎盤を経由して胎児に伝わり、胎児の日内リズムの形成に役立つのです(メトロノーム効果)。

・脳神経について

大脳の底部から左右12対出ている神経が脳神経で、前から順番に番号がついています。知覚に関連するものは、

第1脳神経  嗅神経(嗅覚)

第2脳神経  視神経(視覚)

第5脳神経  三叉神経(顔面皮膚の触覚と味覚の一部)

第7脳神経  顔面神経(味覚の一部)

第8脳神経  内耳神経(聴覚と平衡覚)

第9脳神経  舌咽神経(味覚の一部)

胎児から新生児にかけて、知覚神経の発達には時期の違いがあります。最も早く発達するのは1番前の嗅神経で、生まれたばかりの新生児に最も重要な知覚です。ヒトでは視覚や聴覚が発達したため、退化している可能性がありますが、昆虫や爬虫類、多くの哺乳類には、ごく微量の物質を嗅ぎ分ける生存のために不可欠な知覚です。

視覚と聴覚は、出生後に光や音を感じて、新生児、乳児期に発達する機能です。確かに、妊娠後半期になると、母親のおなかの上から音響振動刺激や強い光を当てると、胎動があったり心拍数が変化しますが、おそらく胎児には迷惑な刺激に違いありません。

 

◆妊娠中に「胎教」を意識して実行したい事

・規則的な生活。

一日の起点になる起床時間朝食時間を一定にする。ずれの許容は2時間程度。

・嗅覚撹乱物質を摂取しない。

酒、たばこ、コーヒーなど大人の嗜好品 間違ったアロマオイル、激辛食品、ニンニク料理などは胎児の嗅覚を撹乱します。これらの摂取により、尿や汗の臭い、授乳中は母乳の匂いも変わります。

・心地よく感じる音楽を聴く。

心身の緊張が解け、くつろげる音がお勧めです。インターネットラジオや有線の環境音楽ambient)にある自然の音やリラクゼーション音楽からお気に入りを見つけましょう。

「胎教」 その2

◆「胎教に悪い」と「胎教に良い?」の大きな違い。

本来、「胎教」という言葉は「○○は胎教に悪い」、「そんなことをすると胎教によくない」など、妊婦が精神的な影響を受けないように願う配慮として使われてきました。

広辞苑では、

「妊婦が精神的な安定や修養につとめて胎児によい影響を与えようとすること」

としていますが、これには多少誤りがあります。

子供が無事に五体満足に生まれ、育つことが親としての唯一無二の願いであり、それがかなえられる事は(自然に、神に)感謝すべき事であった時代に、妊婦やおなかの赤ちゃんに少しでも悪い影響を与えないようにと、祈る思いが「胎教」の始まりです。

胎児の段階から、自分の子供を(他の子供に比べ)より賢く育てるために、妊娠中から何かを行う「胎教」というのは、1980年代以降に注目されてきました。

これは、胎児心拍数モニタリングや超音波検査により、かつてブラックボックスであった子宮内の胎児の様子が少しずつ解明され、胎児学(胎児生理学)という分野ができ、「胎児は見ている(初版)」「胎児は天才だ」などが出版された時期に一致します。

胎児生理が解明されてきたことは良いことですが、「胎教」として誇大解釈されているのが実情です。

 

◆「胎教に悪い」の例

私が所属する産科病棟には若い助産師が多数在籍しており、年中、誰かが妊娠中です。妊娠中の助産師も通常の分娩介助は行いますが、子宮内胎児死亡(死産)や出生前診断の結果で中絶処置を行う時の出産は、妊娠中ではない助産師が介助にあたります。誰が決めたというわけではなく、現場に携わるスタッフらが本能的に、何となく「胎教に悪い」気がするという暗黙の了解で、医学的な根拠はありません。

お産のプロとは言え、さまざまな異常出産を知っているが故に、自分の出産となると不安になるものです。必要以上に不安にさせてはいけないという現場のコンセンサスです。

 

◆「胎教に良い?」は要注意

海外ドラマ「救急救命ER」のファーストシーズン第19話「生と死と」はエミー賞を取った有名なシナリオです。このドラマの中で、ERのグリーン医師が、母親のおなかの上から専用装置で音響振動刺激を与え、寝ている赤ちゃんを起こして元気なことを確認しようとします。その後、母親は胎盤早期剥離を起こして、帝王切開後に死亡します。

これは非常によくできたシナリオで、医学的には実際にあった話を元にしていると思います。

現役産科医としては、あの時点で音響振動刺激を行わずに、刺激のない胎児モニタリングを続け、危険兆候が明らかになった時点で、緊急帝王切開を行っておれば、母子ともに助けられた可能性があると考えます。長年、胎児生理を専門としてきましたが、20年前から音響振動刺激装置は使用していません。

このようなケースは、非常にまれな確率でしか起こりませんが、子宮内の胎児が元気かどうかを確かめるために、胎児の状態を考慮せずに刺激を与えることは、思いもよらない結果を引き起こす可能性があります。

ネット上でキックゲームなどが紹介されています。確かに、母親が叩くサインに反応して胎動が誘発されることはあると思いますが、胎児は寝たばかりかもしれず、親の都合で無理やり起こされて嫌がっている可能性の方が高いと思います。

 

胎教を考えるなら、胎児に余分な刺激を与えないことです。自然界のほ乳類は全て、本能的に刺激をできるだけ避ける努力をしています。

ただし、「胎教」という概念は意味のないことではありません。母親が心がける具体的なことについて次回紹介します。

「胎教」、最も大切な事は何か?

胎教広辞苑第六版)

「妊婦が精神的な安定や修養につとめて胎児によい影響を与えようとすること」

優秀な子孫を授かりたいというのは生物学的に正しい本能ですが、「胎教」となると、子供を賢く育てたい親の気持ちにつけ入るような、怪しいイメージを持つ人もいるでしょう。胎児にとって最も大切な事は何か? について考えます。

 

30年前、大学病院で産科当直をしていた時の事。まだ薄暗い早朝、前日から夫婦喧嘩をして興奮し、一晩中寝られなかった妊婦さんが、お腹が張って痛いと訴え来院されました。髪は乱れ、目は充血し、ハデにやったなという感じですが、すでに夫婦喧嘩は落ち着いており、夫婦の関心は「胎児は大丈夫か」ということです。 

当時、最新の超音波画像装置で見ると、手足を動かす普通の胎動が見られず、胎児は小刻みに震え、あたかも「雷雨の中、家の軒先で震える子犬」のような印象です。胎児心拍数と胎動を連続して調べると、正常なら約20分の周期で見られる活動サイクルも見られません。異常というほどではありませんでしたが、お腹の張りもあるので様子を見たところ、通常の心拍数パターンに戻るまでに約半日かかりました。

私たち大人も、興奮している時に字を書こうとしても、手が震えて上手く書けないものです。母親の血液中のアドレナリンなどの興奮ホルモンは、胎盤を容易に通過して胎児に移行します。母親には過剰なホルモンを分解する働きが備わっていますが、胎児はその機能が未熟で、興奮ホルモンが持続的に作用します。

ストレスによるアドレナリン分泌は、適切な量であれば胎児にも良い刺激になるかもしれませんが、「興奮で手の震えが止まらない」ほどのホルモン分泌は、興奮の理由の善し悪しに関わらず、胎児に良い影響を与えません。

 

次はYouTube 動画(約2分間)です。羊水に包まれた暗い子宮の中で、胎児が感情を表現しています。


おなかの赤ちゃん「笑顔、しかめっ面」 胎児4Dエコー - YouTube

映像自体は2005年頃のものですが、20113月の東日本大震災の直後、被災された妊婦さんが辛い思いをしている中、母親が安心できる環境で、少しでも笑顔を取り戻すことが、おなかの赤ちゃんにとても重要であることを伝えたいと、筆者がアップしたものです。たとえ、本当の笑顔ではなく、辛さを一時的に紛らわすだけであっても、胎児にとっては有意義です。

 

PTSD(心的外傷後ストレス症候群)は、極度のストレス状態の持続や、精神的な衝撃を受けることが原因とされますが、その状態を引き起こすのはアドレナリンなどの生理活性物質です。

胎内PTSDという概念は筆者の造語ですが、胎内で持続的に過剰な生理活性物質にさらされることは、出生後の子供に、動物的な原始不安、漠然とした不安や身体的障害を引き起こす可能性があります。

 

「胎教」でより賢い子に育てる、ということを考える前に、まずは、健康な胎児の発育を邪魔しない、子宮内の発育環境を整えると考えるべきです。

 

次回、「胎教」について、さらに詳しく紹介します。

口噛み酒は、なぜ処女が噛んだ米で作られたのか?

自然の環境でも条件が良ければ、果物や穀類が発酵してお酒になるので、太古からお酒はあったと考えられますが、人間が造るお酒としては、ブドウなどの果実を集めて保存し自然発酵させてできる果実酒、穀類を噛んで造る口噛み酒が始まりとされています。 

 口噛み酒(口神酒)とは?

口噛み酒は、米、イモ、トウモロコシなどの穀類を口の中で噛むと、穀類のデンプン質が唾液中のアミラーゼで分解されて糖質となり、それを吐き出し溜めておくと、自然の酵母が働いて発酵し出来たものです。

穀類を主食とする世界中の先住民族にも伝わっており、文明発祥以前から経験的に出来たものでしょう。おそらく、稲作伝来の前から口噛み酒は存在しており、日本酒のような麹を利用して造るお酒が、後から集団稲作文明として伝わったと考えられます。

 

口噛み酒は、多くの地域において

「処女が穀類を噛んで……」とか

「神事として巫女さんが米を噛んで……」など、

若い未婚の女性が「口噛み」をして造ったと伝わっています。

 口噛み酒と口内細菌

穀類を「口噛み」すると、唾液中のアミラーゼが働きますが、同時に口腔内の常在菌群を練り込む事になります。生まれた時に、母親から正常な常在菌群を受け継いで以来、大病を患うことなく育った若い女性の口内には、最も混ざり気のない健康な細菌集団が存在します。

 

美味しいお酒の条件として「雑味がない」「雑味にあまり癖がない」ことがあります。雑味は、お酒の成分に混ざり気、特に不必要にアミノ酸の種類が多いことが影響します。このアミノ酸は微生物によって造られますから、細菌の種類が不必要に多いと、不必要にアミノ酸が増え、出来たお酒は雑味が増してまずくなります。

 

雑味には好みもありますが、一般には雑味が増すとまずくなります。

・調味料を無秩序に混ぜると必ずまずくなる。

・絵の具の色を無秩序に混ぜると必ず汚い色になる。

・良い香りでも無秩序に混ぜると必ずくさい臭いなる。

 なぜ、口噛み酒は、処女が噛んだ米で作られたのか?

おそらく、若い未婚女性が口噛みしたお酒が、雑味がなく一番旨かった、

ということだと思います。

 

「処女のおならは臭くない」

「健康な赤ちゃんのうんちは食べられる」

「草食動物の糞は臭くない」

「健康なぬか床の臭いは良いにおい」

などと、通ずる点があります。

 

縄文時代、集落を形成した源は豊かな自然から得られる食物などの恵みと、子孫の繁栄です。集落同士の戦いがなく平和で豊かな期間においては、人々の楽しみは食、音楽、踊り、お酒だったことでしょう。体力だけなら男が勝っていても、美味しい口噛み酒を造り、歌や踊りが上手な女性を中心に集落がまとまり、やがて神に仕える巫女が成立する端緒になったと考えられます。出産も身近で行われており、女性がより尊重された時代と考えられます。

 

もしかしたら、邪馬台国の卑弥呼は、若い頃、声が魅力的で踊りが上手く、「口噛み」して出来たお酒が旨かったのかもしれません。

 

酔ってエッチした時に出来た子供は将来、糖尿病になる?

「受胎前後に母親がアルコールを摂取していると、生まれた子供は将来、糖尿病になりやすい」という研究が話題です。これは米国実験生物学連合雑誌(20157月号)に掲載されたネズミの実験の研究報告によるものです。

 

妊娠が判ってからは禁酒をしていても、計画妊娠ではない方がほとんどですから、「排卵日の頃にお酒を飲んでいた」と思い当たると、妊娠中の方は不安に陥ってしまいます。では、どのような内容の研究なのでしょうか?

 

そこで、原著全文を入手し、研究内容を調べてみました。

FASEB journal 2015 Jul;29(7)2690-701 (リンク先は要約)

 

論文は、メスのネズミに、受胎の4日前から妊娠4日まで、アルコール12%の流動食を与えたところ、生まれてきた子供が発育後、高血糖、インスリン感受性低下を示し、糖尿病状態となったという内容です。

ネズミの妊娠期間は20数日ですが、その受胎の前後8日間に、アルコール入りの流動食を与えたということですから、かなり乱暴な実験と言えます。つまり酩酊状態で妊娠したということです。

 

どうしてこんな研究が行われたのでしょうか?

これまで病気の原因として、大きく先天性と後天性があるとされてきました。

● 先天性の病気:遺伝病、染色体異常、先天性感染症、多因子遺伝病など生まれつきの原因。

● 後天性の病気:感染症、外傷、栄養失調、肥満など出生後の生活習慣などによる原因。

 

近年、これらの病気の原因とは別に、DNAの遺伝子情報だけではなく、親から子供に伝えられる病気があることが注目され、特に妊娠中の母親が環境から受けた影響が記憶され、その子供が将来、生活習慣病や代謝疾患を発症しやすくなる事が判ってきました。

 

この研究そのものは信頼性の高いものですが、背景として、研究シナリオを証明するために、極端な状態を設定して実験を行ったと思われます。

 

今回の実験で言えることは、

妊娠するに至ったセックスの頃、毎日が酩酊状態で、お酒が全く抜けない日々だった人は、生まれてくる子供が将来、糖尿病になる可能性があるかもしれない。といった内容です。

 

古来、男女の出会いは祭りの時、年に数回だけ許されたお酒を飲んで、それで子孫を残してきました。毎日は、お酒が手に入らなかったのです。現在妊娠中の方が、たまたま、排卵日にお酒を飲んでいたとしても、アルコール漬けではない普通の人は、全く心配しなくて良いと思います。

 

ただし、妊娠を予定した方が、お酒を控え、禁煙し、偏食などを改善することは大事なことです。現代人の環境は子孫を残し、子孫を繁栄させるには多くの問題を抱えています。食生活を見直すことは重要な少子化対策1つです。

松嶋尚美さん「牛乳有害」発言、問題の真実

テレビ番組での松嶋尚美さんの発言が話題になっています。

松嶋尚美の「牛乳有害」発言に批判相次ぐ 専門家も「科学的根拠に基づかない」とばっさり  J-CASTニュース 7月22日(水)11時33分配信

 

牛乳が日本人にとって有益なのか?有害なのか? 確かに、有害とする科学的根拠はありませんが、実は、ばっさり否定する根拠もありません。牛乳摂取に関する2つの論文を紹介します。

 

1牛乳摂取と男女別の死亡・骨折リスク:コホート研究 (BMJ 2014349g6015

スウェーデンの女性9万人と、男性10万人を対象とした信頼性の高い大規模研究。

(結論)

・女性の場合、牛乳を多く摂取する人では、死亡・骨折リスクが高い

・男性の場合、牛乳を多く摂取する人では、死亡リスクが高いが、骨折リスクは差がなかった。

・発酵乳製品(ヨーグルト・チーズ)では、牛乳と逆の傾向が見られた。

 

ただし研究者らは、今回の結果だけで日常の牛乳摂取を見直すべきかどうかを判断することはできないとしています。

 

2牛乳・乳製品とメタボリックシンドロームに関する横断的研究 (日本栄養・食糧学会誌2010;63151-159

この論文を元に行われた座談会「牛乳・乳製品摂取とメタボリックシンドローム」メディカル朝日別冊によれば、

日本人初の大規模調査研究

・牛乳・乳製品の摂取が多い人にはメタボリックシンドロームが少ないことが示された。

・女性では、牛乳・乳製品の摂取が多いほど、腹囲、BMI中性脂肪収縮期血圧が低く、HDLコレステロールが高かった。

・男性では、牛乳・乳製品の摂取が多いほど、収縮期血圧拡張期血圧が低かった。

 (問い合わせ先:社団法人日本酪農乳業協会)とのことですが、

 

実は、この研究の対象者は乳業メーカー4企業グループに勤務する従業員とその家族。自記式の郵送アンケート調査で回収率は35.8%。メタボリック健診結果は自己申告。という内容で、臨床研究治験や生物統計学の専門家が原著者に名を連ねながら、この研究から、どうして座談会のような結論が出せるのか、限りなく灰色に近い論文です。

 

いずれにしても、牛乳が有用である確かな根拠がなく、もしかしたら牛乳が有害である可能性も否定できないのが現状ならば、牛乳を摂取しないという選択肢、立場はもっと尊重されるべきです。もし松嶋さんが「私はこのようにしている」という、タレント松嶋尚美さんらしい発言だったとすれば、何ら非難されることのない発言ではないでしょうか。